空力性能だけじゃないエアロ系オールラウンダー 「スコット・フォイル 20」アサノ試乗します!その16

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浅野フォイル20

スコットのエアロロード・フォイルシリーズは、空力の追求だけでなく、軽さや剛性も両立することでオールラウンドなモデルを目指している。プロツアーでも勝利を量産する同シリーズから、シマノ・アルテグラ搭載の上位モデル・フォイル20に試乗し、その実力に迫る。

 

「パリ〜ルーベ」も制したエアロロードの名車

浅野フォイル20

「スコット・フォイル20」シマノ・アルテグラ完成車価格/44万9000円(税抜)

フォイルシリーズは、2012年に初代モデルがデビューした、スコットのエアロロード。従来のエアロロードにありがちだった「空力性能は高いが横剛性不足で、横風にも弱く、重量も重い」という弱点を解消するため、ダウンチューブなどフレーム各部を翼断面形状の後端を切り取ったようなカムテール形状とするF01エアロテクノロジーを採用しているのが最大の特徴だ。これにより、優れた空力性能とともに、エアロロードの弱点であった横剛性や横風への強さを克服し、さらに軽量化も実現している。

2016年には2代目となる現行モデルにフルモデルチェンジ。新しいフレーム形状の採用によってさらに斜め方向からの風に対し高い空力性能を発揮するようになったほか、エアロ形状の専用ステムやスペーサーの採用などでさらなる空力性能を追求。その優れた性能は3大ツールでの勝利にとどまらず、2016年には春のクラシックでも屈指の過酷で知られる「北の地獄」ことパリ〜ルーベでも勝利を収めるなど、空力の高いエアロ系オールラウンダーとしてのポテンシャルを存分に発揮している。

2017年モデルのフォイルは、フレーム重量945gでフロントフォークが325 gの軽量モデル・フォイルSLと、同一フレームでフロントフォークが335gのフォイルRC、フレーム重量1060g、フォーク重量365gのノーマルモデルがあり、ノーマルモデルはコンポーネントやアッセンブルされるパーツの違いで5モデルをラインナップする。またフォイルSL、フォイルRC、フォイル10はフレームセットでの販売も行われている。

今回紹介するフォイル20は、ノーマルモデルにシマノ・アルテグラを搭載した上位モデル。価格は44万9000円(税抜)でカラーは1色のみとなる。

浅野フォイル20

フロントフォークのコラム径は上が1-1/4″、下が1-1/2″と上ワンがスタンダードよりも太いテーパードコラム。ヘッドまわりの剛性は非常に高く、ブレーキング時や下りコーナーでの安心感が高い

浅野フォイル20

ステムはフロントフォークの上1-1/4″径に対応する専用品。スペーサーも空力性能向上を意識した翼断面形状の専用品を組み合わせており、空気抵抗削減に余念がない

浅野フォイル20

ダウンチューブに翼断面形状の後端を切り取ったようなD型の断面形状を採用するF01エアロテクノロジー。空力性能と剛性、軽さを高い次元で融合させることに成功している

浅野フォイル20

F01エアロテクノロジーにより、シートポストも翼断面形状の後端を切り取ったようなD型の断面形状の専用品となっている。シートクランプもフレームに内蔵されている

浅野フォイル20

BBはスコットの上位モデルに共通して採用されるBB86。シマノなどが採用する24mm径アクスルのクランクに最適だが、サードパーティー製のベアリングに換装すると30mm径アクスルのクランクも使える

浅野フォイル20

リアブレーキはダイレクトマウントタイプをBB下に配置する。このため、シートステーまわりは見た目にもすっきりし、空力性能と優れた制動力を高い次元で両立する

 

エアロロードの域にとどまらない万能さが魅力

浅野フォイル20

自転車の空気抵抗の多くはライダーが占めている。こんなことを言うと元も子もないのだが、エアロロードに乗るよりも、ポジションを煮詰めた方がよほど空気抵抗が少なくなる。ステムの下にスペーサーを何枚も入れてハンドルが極端に高くなったエアロロードより、低めのハンドルでポジションがバッチリ出た普通のロードバイクの方が高速巡航もラクだし、速く走れる。

だからといってエアロロードに意味がないのかというと、決してそんなことはない。ポジションがどちらもバッチリ出せるという前提なら、やはり高速巡航においてエアロロードの方が分があるに違いないからだ。その差はわずかに数ワットかもしれない。だが、その数ワットの差が勝敗に結びつくかもしれないのがレースの世界だ。サイクリストとしてその数ワットの差にすがりたくなるのは当然だ。

のっけから脱線気味になってしまったが、結論から言うとスコットのエアロロード・フォイルは、個人的にはすごく好きなマシンだ。

ハンドル位置を低くできる短めのヘッドチューブを持つレーシングフレームは、パリッと硬く、BB回りやヘッド回りのカッチリ感が際立つ。同じレーシングバイクのアディクトと比べてもテーパードフォークの上部が太くなっている分、ヘッド回りの力強さは際立って高い。ハンドリングはシャープで、ヤワなホイールだと足まわりが負けそうだ。今回の試乗ホイールは比較的安価なロープロファイルホイールだったが、このバイクのキャラクターを生かすなら40mmハイト以上のワイドリムを持ち、ハブフランジ幅が広い横剛性の高いホイールが合いそうな気がする。

ベーシックモデルのフォイル20でこれなのだから、上位モデルのRCや超軽量モデルのSLに至っては相当な剛性感があるはずだ。レーシングバイクという強い主張を持ち、のんびりと走ることを許さないような、その潔さ、その緊張感がいい。レーシングバイクであるという主張の強さは、アディクトにも通じるものがある。

アディクトと違うと感じるのは、登坂性能と強い向かい風、特に斜め方向からの向かい風の中を走った時だ。

フォイルもエアロロードにしては軽量なので、登坂性能が極端に悪いわけではない。他社のエアロロードに比べると十分軽量で、上りでも平均点以上の走りをするし、短めの上りならパワーで押し切ってしまえる。ただ、アディクトは圧倒的な軽さを誇るので、純粋な登坂性能だけを比べるならアディクトに分がある。

一方、向かい風に対する強さは、フォイルの強みと言っていいだろう。F01エアロテクノロジーによるヘッドチューブまわりやダウンチューブの造形が効いているのか、確かに向かい風の中ではフレームがスイーッと風を切り裂くように走って行く感覚がある。それでいて斜め方向の風や横風にバイクがあおられるようなこともあまりなく、エアロロードであることの不安を感じさせず、メリットは最大限に得られるのが印象的だった。フォイルは、空力性能に優れたオールラウンドバイクと言えるだろう。

最後にスコットのレーシングバイクのツートップ、フォイルとアディクトのどちらを選べばよいか、悩んだときの個人的な判断基準を紹介したいと思う。フォイルはレーススピードでの高速巡航性を重視する人、ロードレースやクリテリウムメインで平地〜丘陵地を走ることが多い人、体格がよく高いパワーを出せる人に向くと思われる。一方、アディクトは登坂性能を重視する人、ヒルクライムがメインでロングライドそれなりにも楽しみたい人に向くだろう。

 

spec.

●フレーム/カーボン
●フォーク/カーボン
●コンポーネント/シマノ・アルテグラ
●ホイール/シンクロスRR2.0
●タイヤ/コンチネンタル・グランドスポーツレース700×25c
●ハンドル/シンクロスRR2.0 アナトミック31.8mm
●ステム/シンクロス・フォイル1 1/4
●サドル/シンクロスRR2.0
●サイズ/XXS,XS,S,M,L
●試乗車重量/7.9kg(サイズS)

■浅野真則
実業団エリートクラスで走る自転車ライター。ロードレース、エンデューロ、ヒルクライムなど幅広くレースを楽しみ、海外のグランフォンドにも参加経験がある。愛車はスコット・アディクトとキャノンデール・キャード10。ハンドル位置が低めのレーシングバイクが好き。