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グランツールを走り続ける”鉄人”アダム・ハンセンの強さの秘密を直撃!

ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャ、世界中のライダーたちがこの3大グランツールの出場を目指すなか、2011年のブエルタから16回連続で完走し続けている”鉄人”アダム・ハンセン。

11月4日(金)~6(日)に幕張メッセで行われたサイクルモードインターナショナル2016に来日したハンセンは、たくさんの日本のファンの前でトークショーやサイン会に応じていた。強靱な肉体と精神はどこから培われているのか、トレーニング方法についても一部教えてもらった。非常に穏やかな表情でインタビューに答えてくれたハンセンのロングインタビューをお届けしよう。
text:滝沢佳奈子 photo:Graham Watson/中島丈博

グランツールとトレーニング

CS:2011年から続く16回連続グランツール完走を達成していますが、どこまで記録をのばすつもりでしょうか?
いつまでできるかわからないけど、グランツールに出ることを心から楽しんでいるよ。できる限り長く続けていきたいね。

CS:2015年のツール第8ステージで右肩を脱臼してもなお完走を果たしました。どんな思いだったのでしょうか?
すごく痛かったし、とてもハードだったからもう連続記録は終わってしまうかな、と思った。でも、何日間か休みをとったらラッキーなことにだんだん良くなってきて続けることができたんだ。

CS:そんな状態でもどうしてそのモチベーションを保ち続けることができるんでしょうか?
僕はどんなレースでもいつもゴールすることを考えている。自分の達成を積み上げていくことを楽しんでいたし、フィニッシュするためにベストを尽くすのが僕の使命だったんだ。

CS:グランツールを年に3回走るために回復する時間は他の選手よりも短いのではないでしょうか?
僕が思うに、多くの選手はオーバートレーニングになっているんじゃないかな。僕はグランツールを走った後、8日間はトレーニングをまったく行わない。でも多くの選手はグランツールを走り終えて1~2日後にはトレーニングを始めるんだ。僕は幸運なことにチームからとても良いレーススケジュールを与えられていて、3大グランツールの前に多くの休みをとることができる。その間はレースがないから、リカバリーに集中できるし次のレースに向けていいトレーニングができるんだ。

CS:実際に休息日には何をしているんですか?
8日間はバイクには完全に触らない。日常生活のことはやるけど運動もしないしトレーニングももちろんしないよ。
 
CS:プロトンのなかで自分自身はどんな存在だと思いますか?例えば、チームメイトのアンドレ・グライペルは……とても怒っているとか?(笑)
僕は誰に対しても明るく接しているよ。プロトン内の平和を保つためにね。全てのライダーといつもフレンドリーに接しているけど、昔は彼らはグランツールにずっと参加している僕のことをクレイジーだと思っていた。だけど今はみんな理解してくれていて、友達みたいな関係性を保っているよ。

CS:プロトンで誰と仲がいいですか?
スロバキアの出身のヴェリトス兄弟、マーティン・ヴェリトス(エティックス・クイックステップ)とピーター・ヴェリトス(BMCレーシング)と仲がいいかな。住んでいるところがすごく近いんだ。まあ誰とでも仲良くなれるけどね。

CS:オフシーズン、トレーニングするときは誰と一緒にトレーニングをしているんですか?
トレーニングはいつも一人でするよ。

CS:トレーニングメニューはチームからもらっているんですか?
いや、自分で組んだものをやっている。

CS:それは自分の経験から?
そうだね、過去にHTCコロンビアに所属していた時にとてもいい環境があったんだ。HTCコロンビアの監督からも色々教えてもらって、その時の経験がとっても自分のためになっている。あとは自分の体の状態を把握しているから、それに合わせて調整をしていくんだ。

CS:メニューの内容を少し教えてもらえますか?
僕は3日間のトレーニングプログラムを組んでいるよ。1日目はスピードトレーニング、2日目は体幹トレーニング、3日目はロングライドを行う。ロングライドはだいたい6~8時間くらいだね。トレーニングはいつも距離数ではなく時間で設定しているんだ。そして4日目は休息日。この3日間トレーニング+1日休息のルーティーンを繰り返すんだ。なぜこのような形をとってるかというと、休息を挟んでからとてもフレッシュな状態で1日目のスピードトレーニングに臨みたいから。そこで必要とする爆発力のある走りやパワーアップを手に入れるんだ。2日目は少し疲れているので簡単に体幹トレーニングを行う。3日目はスローペースで長い時間走る。

CS:1日目のスピードトレーニングはどんなトレーニングなんですか?
インターバルだね。30分のウォームアップの後、8秒間100%の力でスプリントしてから3分間イージー(スローダウン)というセットを5回やるんだ。他の選手は12秒スプリントっていうのをやっている人もいるけど、疲れるから長く続かないんだよね。これはスプリントのパワーをアップするために行っている。その後は、30分間ゆっくり漕いで次の10分間のセッションに入る。そのセッションでは、40秒間閾値より上を、20秒間閾値より下げるという1分のセットを10回繰り返す。秒数は体調によってコントロールすることもあるんだけど、これはFTP向上のために行っている。
 

CS:スプリント時の最大速度はどこまで出るんですか?
見たことないね!どこまでできるかという感覚は自分でわかっているから特にメーターを見ないんだ。

CS:それぞれのグランツールでの目標は何なのでしょうか?
ジロのメインは、グライペルのステージ優勝を量産するためにチームメイト全員でサポートしていくこと。時々、自分がフリーになってステージを獲りに行くことにトライできたりもするんだけどね。ツールはトニー・ガロパンの総合であったり、グライペルのステージ優勝であったり100%チームのために仕事をすること。ブエルタは若いスプリンターのアシストとして働くことかな。

CS:今注目している若手の選手はいますか?
スプリンターだったらオリカ・バイクエクスチェンジの若手選手が上がってきているね。スプリンターでなければ、コロンビアの選手やイェーツ兄弟(サイモン・イェーツ、アダム・イェーツ。2人ともオリカ・バイクエクスチェンジ所属)も伸びてきているね。あとはチームスカイのレオポルド・ケニッグはブエルタでもとてもいい活躍をしていたし、彼は非常に将来有望だね。

CS:ロット・スーダルの中だとティム・ウェレンスも将来有望なのでは?
そうだね、彼も将来的に注目なオールラウンダーだ。

CS:完走をするだけでなくチームの仕事はもちろん、ときにはステージ優勝も飾っていますが、勝てるときに抜け出す長年のカンみたいなものがあるんでしょうか?
やってみることだね。時々チームからチャンスをもらうんだ。2013年にジロで勝った時は逃げで勝った。次の年のブエルタは逃げ勝ちではなく集団から抜け出しての特別なゴールだった。

CS:どれくらいチームから逃げていいチャンスをもらえるんですか?
去年だけど、ジロでは4回、ツールでは2回だ。ジロは成功したけどツールは失敗したね(笑)。ブエルタではたしか4回かな。本当に幸せなことにいつもトライさせてもらってる。

CS:グランツールを走るために何が一番必要だと思いますか?
グランツールを走る前にいいトレーニングは必要だね。とても大事なのがメンタル。グランツールを走る前に5日間、どこも行かないで家で頭をクリアにしておくこと。

機材へのこだわり

CS:ハンドル幅が狭いと有名ですが、どうしてそのようなセッティングになったのですか?
空力を可能な限り効果的に良くするため。風洞実験でテストをして、体を合わせていった。このサイズは自分にベストなんだ。

CS:リドレーのバイクは乗っていてどうですか?
最高のバイクだと思うよ。HTCのときはジャイアントやスコットに乗っていたんだけど、バイクの選択肢は一つしかなかったんだ。でも、リドレーは3タイプのバイクを使うことができる。ライダーはみんな違うし、どのレースも違うから使い分けることができて助かっているよ。僕は剛性が高くてとても軽いヘリウムが好きなんだ。完成車の重量は選手にとって非常に重要なこと。良い例として、今回ジロの上りTTのステージの前、各自転車の重量を計ったんだけど、僕の自転車は6.8kgしかないんだ。もちろん特別な改造もしてないし、ノーマルなヘリウム。他の選手の自転車は大体7.2kg~7.3kgくらいだったから、どうしてそんなに軽量なのかと他のチームの選手も監督もみんなとても驚いていた。上りステージだから周りが軽量化のためにボトルケージを取るなか、僕はボトルケージを2つ付けて走ったんだ。
 
CS:自作シューズについて教えてください
シューズの製作ノウハウは全部独学です。トライ&エラーを繰り返してかれこれ8年くらいやっていますね。シューズは3つのモールドによってできている。インソール、内側のシェル、外側のシェルという3つ。ベースのみカーボンではなく、足を包み込むように全周にわたってカーボンを採用した構造にしているので、ソールだけカーボンのシューズよりもさらに剛性が高くできています。

シェルのうち、2つはそれぞれ自分の足型のシリコンモールドをベースにして整形している。素材自体は決して高価なものではないですが、成型時に使うシリコンにコストがかかります。クロージャーは今までシディのダイヤルを使っていたんだけど、新作はボアに変更する予定。より軽量だからです。

それと3Dプリンターでシューズケースを作りました。僕のシューズは剛性があるけれど、外側からのインパクトに弱い。だからいままでスーツケースにシューズを入れるために、大きなスペースが必要でした。でもケースができたので省スペース化できるはず。あとはヒールにつける部品と、ボアクロージャーのワイヤをひっかけるパーツも3Dプリンターで作りました。

ウエアブランドも「ハンシーノ」というブランドで展開する予定です。まずはカジュアルウエアのラインナップでスタートするつもり。サイクリングに使えるような。そのあとはレーシングウエアやランニング、トライアスロンでも使えるウエアとラインナップを増やしていく予定。



その他にも話は多岐に渡った。ハンセンのプロデュースするブランド、HANSEENO(http://hanseeno.myshopify.com/)では今後サイクリングウエアなどを充実していくとのこと。今後のグランツール完走記録更新はもちろんのこと、それ以外の活躍も見逃せない。