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安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.6

近年稀に見る名作と称されたキャノンデール・スーパーシックスエボハイモッドが、4年ぶりにフルモデルチェンジ。その進化の方向性とは。さらなる軽量化か、空力性能向上か、それとも― 
ザルツブルグにて開催されたワールドローンチに参加して技術者にたっぷりと話を聞いた安井が、旧モデルとの比較もふまえて新型エボの全てをお伝えするvol.6。


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text:安井行生 photo:キャノンデール、安井行生

ジオメトリー進化の謎


無視できないのがジオメトリー面における進歩である。前作はリーチの伸び方がやや歪であったが、新型はサイズごとにきっちり6mmずつ増えている。シート角もヘッド角も全サイズで微調整されている。ここにきて、キャノンデールのロードバイクが真っ当なジオメトリーを手に入れたのである。一体なぜ、いきなりジオメトリーがマトモになったのか。キャノンデールに限らず、なぜ今までロードバイクメーカーのジオメトリーは納得しかねるものが多かったのか。
 
Q:ジオメトリーを見ると、シート角、ヘッド角が全て細かく変更され、フレームサイズが大きくなるにつれてリーチが均等に6mmずつ増えていますね。このリーチの伸び方は意図したもの(リーチ前提のジオメトリー)ですか?前作はシート角・ヘッド角を共通とするサイズがあったり、52と54のリーチが同じだったり、60より63のリーチが短いなどという見過ごせない欠点がありましたが。
 
A:その通りです。前作は伝統的なロードレーサーのジオメトリーをそのまま採用していたんです。
スチールフレームの時代、ヨーロッパのビルダーたちは、大きなサイズのフレームを作るときにトップチューブを思い通りの長さにできないことが多々ありました。なぜなら、トップチューブ用のチューブには、それほど長いものが用意されていなかったからです。だから、ビッグサイズのフレームの中には、トップチューブ長を変えずにヘッドチューブを上に伸ばしただけという歪なジオメトリーが存在したんです。
そのような理由もあって、ロードバイクはフレームサイズごとにリーチが均等に伸びていなかったんです。理論的な考えに立脚したジオメトリーではなかったわけです。我々はそのヨーロッパ流のジオメトリーにのっとってフレームを作っていたため、矛盾したジオメトリーになっていたものがありました。しかし、新型シナプスから正しいジオメトリーになりましたよ。
 

スタック&リーチという概念


Q:ジオメトリーは数字ですよね。よく考えればおかしいことは分かりそうなものですが、なぜそれにもっと早く気付かなかったんでしょう?
 
A:うーん、あまりよく考えてなかった、というのが正直なところです。誰も文句を言いませんでしたし。いいフレームを作ることは考えていましたが、ジオメトリーには注目していませんでした。でも、ダン・エンプフィールドと一緒に仕事をするようになり、こういうジオメトリーはおかしいということに気づいたんです。このままではいけない、と。
 
Q:ダン・エンプフィールド?誰ですか?
 
A:フィッティングを科学的に考え始め、SLOWTWITCH.COMというトライアスロンの情報サイトを立ち上げて、フレームジオメトリーにおけるスタック&リーチという概念を広めた人物です。
 
キャノンデールに限らず、各メーカーのジオメトリーはここ数年でどんどんマトモなものになった。いまやリーチがサイズ間で逆転しているものはほとんど見られなくなった。なぜそろいもそろってジオメトリーが真っ当なものになっていったのかという疑問が今までぬぐえなかったのだが、そこにはこんな理由があったのだ。
もちろんこれはキャノンデールの事情であり、他メーカーには他の理由があるのかもしれないが、我々ユーザーの目に触れることのない水面下で暗渠のような力が流れ、ロードバイクの世界を変えることもあるのだ。非常に興味深い事実である。
 

ディスクブレーキモデル


Q:ディスクブレーキバージョンの予定は?
 
A:ディスク仕様のプロトタイプも作ってテストしています。でもUCIが基準を明確にしてくれていないので、まだ発売はしません。今の段階ではどの方向にいくか分かりませんから。
※2015年6月時点での回答。先日、キャノンデールは新型エボのディスクブレーキ版を発表した。CAAD12のディスク版は、剛性が確保できなかったのかノーマル版とは似ても似つかないほど太いフォークを使っていた。これでは走りが別物になってしまいそうなものだが、新型エボのディスク版にそんなやっつけ仕事は見られない。ディスク版もノーマルもフォークは最近のキャノンデールらしく細いままである。ロードバイクの繊細な乗り味を殺さずにディスク化した結果だろうか。これは期待できそうである。
 
最後に、通訳として同席してくれていたキャノンデール・ジャパンの担当者が面白い質問をぶつけてくれた。バイクとは直接関係ないが、自戒を込めて掲載しておく。
 
Q:安井さんとの質疑応答を隣で聞いていると、製造法やジオメトリーの進化など面白いネタが次々と出てくるのに、なぜそういうことをプレゼンでアピールしないんですか?
 
A:自転車ジャーナリストの多くは、「どう変わったのか」という結果が大事で、「どのようにしてそれを達成したのか」というプロセスには興味がないみたいです。だから、こういうことをプレゼンでやったらみんな寝ちゃうんですよ。
 
プロダクトマネージャー氏はそう言うと苦笑いをした。「どう変わったのか」という結果だけを知りたいのだったら広報資料やカタログを見るだけでいい。わざわざプレスローンチに参加する必要はない。しかし実際には、プレローンチに参加しても広報資料やカタログやプレゼンの内容を文章に書き替えているだけの連中が多いということだ。海外メディアを無条件に信仰する向きもあるが、国籍なんか関係ない。海外試乗会を接待旅行と勘違いして自分の仕事をしないやつはどの国にもいるのだ。もちろん、海外ジャーナリストの中にもエンジニアを捕まえて根掘り葉掘り聞いているヤツもいる。日本の自転車メディアだって、メーカー技術者にバカにされないように頑張らねばならない。
 
安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.7