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フルームが3度目の総合優勝! ツール・ド・フランス 2016

ツールで3度目の勝利を得るために
フルームは下りでアタックし、
平地で逃げ、峠で走り、
たとえ転倒しても、負傷しても、
チームメートの自転車を借りて
ゴールを目指した…
Photo: Graham Watson

ライバルなき闘い

 
第103回ツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)は、7月24日にパリのシャンゼリゼ大通りで閉幕し、英国のクリストファー・フルーム(スカイ)が、2013年、2015年につづいて3度目の総合優勝を成し遂げた。これで31歳のフルームは、フィリップ・テイス(ベルギー)、ルイゾン・ボベ(フランス)、グレッグ・レモン(米国)の記録に並んだ。

そして彼は、ジャック・アンクティル(フランス)、エディ・メルクス(ベルギー)、ベルナール・イノー(フランス)、ミゲル・インドゥライン(スペイン)の4人が持つ、5勝の記録に一歩近づくことができた。


調整レースで走った6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネ(UCIワールドツアー)で総合優勝し、準備万端だったフルームは今年も開幕前から優勝候補の筆頭だった。

ツールで過去2回総合優勝しているスペインのアルベルト・コンタドール(ティンコフ)はフルームの強敵になるはずだったのだが、フランス北西部のモン・サン・ミシェルをスタートした初日に落車し、右肩、右肘、右腰を負傷してしまった。彼
は負傷したままレースを続けたが、ピレネー3日目の第9ステージで今年のツールを去っていった。

そのちょうど前日の第8ステージで、フルームは厳しい峠を4つ越えるピレネー区間を制し、総合首位に立っていた。そのステージは頂上ゴールではなかったが、彼は最後に越えたペイルスールド峠の山頂で精鋭グループからアタックし、下りでライバルたちを出し抜くことに成功したのだ。

「下りでアタックすることは計画していなかった。明日のためにむしろ守りの走りをしようと考えていた。でも、上り坂の最後の2kmで、多分下りで何かできるんじゃないかと思ったんだ」と、フルームはゴール後に明かしている。彼はここでマイヨ・ジョーヌを獲得し、それを最終日まで守り切った。
 
 
第8ステージの下りでアタックして区間優勝したフルームは、そこでマイヨ・ジョーヌも獲得した
第8ステージの下りでアタックして区間優勝したフルームは、そこでマイヨ・ジョーヌも獲得した
 
強風の影響で落車と集団分裂がつづいた第11ステージでは、マイヨ・ジョーヌのフルームが、ゴールまで残り12kmでアタックしたマイヨ・ベールのペーテル・サガン(ティンコフ)と一緒に逃げるサプライズもあった。彼は区間2位に入ってボーナスタイムも獲得し、ライバルたちとのタイム差を12秒広げた。

「最後の10kmは、その価値があるのか? と自分自身に問いかけていた。現時点ではどこででも、僕はライバルたちからタイムを得る努力をする。キンタナはたいてい最後の週にとても強いのがわかっているからだ。だから、彼に対してタイム差を得る必要があるときには、いつでも僕はそうする」と、フルームはゴール後に語った。

2度の優勝経験があっても、下りや平地でライバルを出し抜いてわずかなタイム差を稼がなければならないような、何らかの不安が今年はあったのかもしれない。しかし、それは取り越し苦労だったようだ。
 
 
フルームは平坦ステージでもアタックしてわずかなタイムを稼いだ
フルームは平坦ステージでもアタックしてわずかなタイムを稼いだ
 
 
強いチーム力に守られ、3度目の総合優勝に向かって着実に駒を進めていくフルームには、実際のところ、強敵はいなかった。彼が最も恐れていたコロンビアのナイロ・キンタナ(モビスター)は、いつものように最終週に強さを見せることはなく、総合3位でレースを終えた。

26歳のキンタナが、今年のツールで本領を発揮できていなかったのは誰の目にも明らかだった。「僕は身体的に問題があった。アレルギーに苦しめられていたんだ」と、彼は最終日に明かしていた。

調整レースのクリテリウム・デュ・ドーフィネで、フルームが最も注目していたのは、昨年までチームメートだったオーストラリアのリッチー・ポート(BMC)だった。「彼はツールでも主要なライバルになるだろう」と、フルーム自身が予言していた通り、ポートは山岳で目覚ましい走りを見せてくれた。

しかしその時すでに、ポートは総合争いから一歩後退していた。彼はツールが開幕してたった2日目に、ゴールまで残り4.4kmで後輪のパンクに見舞われてしまい、1分45秒を失ってしまっていたのだ。第8ステージでフルームがマイヨ・ジョーヌを獲得したとき、他の優勝候補たちはまだフルームに数10秒差しか付けられていなかったが、ポートだけはすでに2分遅れだった。
 
 

峠を走ったマイヨ・ジョーヌ

今年のツールで強敵のいなかったフルームが闘わなければならなかったのは、不運だった。

フランスの祝日である革命記念日に設定され、最も注目されていたモン・バントゥ頂上ゴールの第12ステージは、強風の影響でコースが変更になり、ゴール地点は山頂よりも6km下になっていた。ゴール手前1km周辺には大勢の観客が溢れかえり、観客の波に行手を阻まれたTV中継のバイクが急停車し、すぐ後方を走っていたマイヨ・ジョーヌのフルームは、一緒に走っていたバウケ・モレマ(トレック・セガフレード)、ポートと一緒にクラッシュしてしまった。

不運は重なるもので、フルームの自転車は後方から来たバイクに轢かれて破損し、乗ることができなくなってしまった。彼は自転車を置き去りにし、フェンスが設置されているエリアまで走って代車の到着を待たなければならなかった。
 
 
 
マイヨ・ジョーヌの選手が峠を走る光景には、世界中が驚かされた。

このアクシデントでフルームはライバルたちよりも1分以上遅れてゴールし、マイヨ・ジョーヌを失ってしまうところだった。しかし、競技審判が特別な救済措置を下し、フルームは事故が起きた時に一緒だったモレマと同じタイムを与えられ、総合首位の座を守ることができた。

たとえフルームがモン・バントゥでマイヨ・ジョーヌを失っていたとしても、彼は翌日の個人タイムトライアルで間違いなくそれを奪い返していたにちがいない。救済措置でマイヨ・ジョーヌを着られなかったオーストラリアのアダム・イエーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)はまだ若く、個人タイムトライアルは得意分野ではなかった。

実際、第13ステージの個人タイムトライアルでフルームよりも速いタイムを出すことができたのは、オランダTTチャンピオンのトム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)だけだった。そしてアルプスで競われたアップヒルの個人タイムトライアルでは、フルームはそのドゥムランも倒して区間2勝目を上げたのだ。

 


フルームは後半戦に設定されていた2度の個人タイムトライアルで、ライバルとのタイム差を着実に広げていき、峠では常にチームメートたちに護られていた。ところが雨のアルプスで、彼はふたたび不運に見舞われてしまった。

カテゴリー1級のサン・ジェルベ・モン・ブラン山頂がゴールだった第19ステージは雨が降り続き、路面は滑りやすくなり、峠の下り坂では落車が続出した。そしてフルームも、終盤の下り坂でスリップして転倒してしまったのだ。

フルームは右ヒザと背中を負傷し、自転車も壊れてしまっていたが、後方を走っていたチームメートのゲラント・トーマス(スカイ)から自転車を借り、すぐレースに復帰した。そしてオランダのウォートル・プールス(スカイ)がゴールまで彼を引き続けてくれたため、フルームはライバルたちに大差を付けられることなく、最大の危機を回避することができた。
 
 

 

アルプス山岳ステージはまだ1日残っていて、フルームはケガの痛みを抱えて走らなければならなかったが、幸いその日は厳しい頂上ゴールではなかった。フルームはその時すでに総合で4分以上のアドバンテージを得ていて、冷たい雨の中、危険を冒して攻撃を仕掛けるような大胆なライバルもいなかった。

チームスカイは初めて9人揃ってパリに凱旋し、最後は横一列に並んでゴールしてフルームの3度目の勝利を祝った。「僕のチームメートたちは毎日空っぽになるまで働いてくれた。だからこれはチームスポーツなんだということをフィニッシュラインで示すことはとても重要だった。それはすべて、僕たちが努力して得たものだった」と、フルームはシャンゼリゼで語っていた。
 

■3度目の総合優勝を果たしたフルームの表彰式スピーチ
「僕の息子ケランよ、この勝利は君のものだ。僕はニースの悲劇で命を失った人々のことを改めて考える。自由社会にとってスポーツの価値はとても重要だ。僕たちはみんな、ツール・ド・フランスが大好きだ。それは予測不可能だからこそ大好きだ。

しかし、僕たちは変わらずにあることがもっと好きだ。それは沿道に並ぶ、すべての国からやってきたファンの情熱と、フランスの田舎の美しさと、真のスポーツを通じて築かれた友情の絆だ。それらは決して変わることがない。それからもう一つ。(フランス語で)この難しい3週の間の、みなさんの親切さに感謝します。ツール万歳、フランス万歳!」


 

ツール・ド・フランス2016 個人総合最終成績

1 クリストファー・フルーム(スカイ/英国)89時間04分48秒
2 ロマン・バルデ(AG2R・ラモンディアル/フランス)+4分05秒
3 ナイロ・キンタナ(モビスター/コロンビア)+4分21秒
4 アダム・イエーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ/英国)+4分42秒
5 リッチー・ポート(BMC/オーストラリア)+5分17秒
6 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター/スペイン)+6分16秒
7 ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ/スペイン)+6分58秒
8 ルイ・メインティス(ランプレ・メリダ/南アフリカ)+6分58秒
9 ダニエル・マーティン(エティックス・クイックステップ/アイルランド)+7分04秒
10 ロマン・クロイツィーゲル(ティンコフ/チェコ)+7分11秒
 
 




Best of - Tour de France 2016 投稿者 tourdefrance