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ジロのすみっこから、僭越(せんえつ)ながらお届けします その4

現在開催中、今年最初のグランツールであるジロ・デ・イタリア。レースが北イタリアに差し掛かるタイミングで運よくイタリアに行く仕事があった中島が、これまた運よくニッポ・ヴィーニファンティーニチームにくっついてジロ第13ステージ~第16ステージまでを回れるチャンスをゲット。そんな日々をお届けします。
 
text:中島丈博

まだまだ闘いは続きますが・・・

ついに第16ステージに到達。自分が帯同できる期間の最終ステージです。レースは続きますが、まずはお世話になった多くの方々にお礼を言いたいと思います。グラッツェ!

最後の記事は、取材する我々が見ている風景についてお伝えしたいと思います。ジロ・デ・イタリアは多くのメディアが帯同し、その模様をさまざまな視点で世界に発信しています。テレビ中継、レース専門誌、自転車情報サイトとメディアは多様です。テレビ中継はバイクやヘリコプターで逐一レースを追いかけその展開を伝えてくれます。スチールカメラも負けてはいません。その一瞬の選手の表情や仕草を切り取ることで、この過酷な闘いをより印象的なものへと変えてくれます。

とはいえ、あまたあるメディアのなかで、テレビ中継やカメラバイクに乗って写真を撮れる人たちというのは多くはありません。ほとんどのメディアは自前の車両でレースを追いかけます。カメラマンであればシャッターチャンスは日に数回しかありません。
 

少ないチャンスをものにする

その数回で、いかに自分が伝えたい情報、ジロの出来事を撮影するか、取材できるかという研ぎ澄まされた仕事になります。レースで「テイク2」はありえないのですから。自分は今回、あるカメラマンのクルマに同乗させてもらい、レースに帯同しました。
 
第16ステージの撮影プランは、まずスタートを撮影し、その後クルマでコースと並走する高速道路を経て、途中からレースコースに合流。フィニッシュまで先回りして撮影するというプランです。
 
ただこれは「この日だから」のプランです。日によっては、最初からコースの途中に陣取ってレースを待つ場合もあります。限られたレース日程の中で、自分が撮りたい選手、撮りたい風景などを鑑みてプランニングします。グランツールのように開催期間が長いレースの場合、スタート前に計画していたとしても、レースの展開次第で流動的にプランを変えなければなりません。経験とレース勘がモノをいう世界です。

スタート地点の街並みなど、入れたい要素を考えながら、自分の撮影したい選手や機材を狙います。狙いを達成した後は、クルマでレースコースと並走するエスケープルートへ。このルートでレーススタート後に出発しても、フィニッシュ地点へ先回りできます。プロトンを追い抜いた後はレースコースにクルマで侵入します。

レースコースはもちろん交通規制されているので、一般車両は侵入することができませんが、取材申請している車両は特別に走ることができます。とはいえ、観客や観戦ポイントを目指すサイクリストが多くいますし、街中は多くの人であふれています。かつてはメディアたちの無茶な運転が話題になることがありましたが、今は節度ある運転が求められるのです。
 
スタート地点には日本からの観戦ツアー参加者たちが
スタート地点には日本からの観戦ツアー参加者たちが

フィニッシュは早くから熱気に包まれている

レース状況を確認しながらフィニッシュ地点へ到着。フィニッシュまで時間がありますが、もちろん幾重にも人垣ができています。思い思いの応援グッズを身に着け、レースの到着を待ちます。会場内には、レースの状況を伝えるMCの陽気な声と、ノリのいい音楽が響き渡り、観客たちのテンションを温めています。
 

レースの到着前には、マリア・ローザをはじめ、山岳賞の青いマリア・アッズーラ、ポイント賞の赤いマリア・ロッサ、新人賞の白いマリア・ビアンカが各賞ジャージのスポンサー名とともに紹介されます。
 

選手、カメラマン、観客の興奮と集中が最高潮に


そうしているうちに、パブリックビューではアレハンドロ・バルベルデ(モビスター/スペイン)、スティーブン・クルイスウエイク(チームロトNL・ユンボ/オランダ)、イルヌール・ザカリン(カチューシャ/ロシア)の3人がフィニッシュを目指して逃げている姿が映し出される。各カメラマンたちが続々とフィニッシュ地点に集まり、場所取り合戦が始まる。身長を活かしたり、カメラマン同士の体の隙間から望遠レンズを突き出したり、そもそもフィニッシュの撮影は狙わず、フィニッシュ後の選手を撮影するために奥に陣取る人など、各人の作戦が見える。

そんなカメラマンの闘いをよそに、主役たちの闘いもこの日のフィナーレを迎えます。まずは観客の歓声が波のようにフィニッシュ地点に届き、それに押されるようにバルベルデが右手を天につき上げながらフィニッシュ。3人を捕まえられなかった小集団がパラパラとフィニッシュ。グルペットはまだまだ後ろだ。
 

勝者は喜びを隠さない

ステージ優勝のアレハンドロ・バルベルデ(モビスター/スペイン)
ステージ優勝のアレハンドロ・バルベルデ(モビスター/スペイン)
マリア・ローザはスティーブン・クルイスウエイク(チームロトNL・ユンボ/オランダ)が守り、2位にさらなるタイム差をつけることに成功した
マリア・ローザはスティーブン・クルイスウエイク(チームロトNL・ユンボ/オランダ)が守り、2位にさらなるタイム差をつけることに成功した

グルペットを待たずしてステージ優勝と、マリア・ローザの表彰が始まる。勝者の価値を感じる瞬間だ。しばらくすると、グルペットが帰還。山岳ステージにしては平均速度が速かったために、選手たちは一様に疲れた顔をしていた。
 
この日もダミアーノ・クネゴは山岳賞ジャージを守った
この日もダミアーノ・クネゴは山岳賞ジャージを守った
表彰台に群がるカメラマン。いつも見ている1枚はこの闘いの末に撮影された1枚なのだ
表彰台に群がるカメラマン。いつも見ている1枚はこの闘いの末に撮影された1枚なのだ
山本元喜はフィニッシュがしばらくバイクに覆いかぶさるようにしていた。レースのつらさをうかがい知ることができる
山本元喜はフィニッシュがしばらくバイクに覆いかぶさるようにしていた。レースのつらさをうかがい知ることができる