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ベルギーのバナールトが激戦を制した! 2016 シクロクロス世界選

今年のシクロクロス世界選は
ファンデルプールの連覇で終わるにちがいないと
誰もが予想していた。
ところが思わぬアクシデントが
チャンピオンの運命を狂わせた。
そして逆境に負けない強い精神力の持ち主が、
最後に勝利をもぎ取った…

宿命の対決の結末

激戦を制したベルギーのバナールト
激戦を制したベルギーのバナールト

ベルギーチャンピオンのウォウト・バナールト(クレラン・バストフートセルビス)と、オランダチャンピオンのマテュー・ファンデルプール(BKCP・コレンドン)は、宿命のライバルだ。

2人はたった1つしか年が違わず、バナールトが1994年9月生まれの21歳で、ファンデルプールが1995年1月生まれの21歳。年齢的には2人ともまだアンダー23の選手だが、昨年チェコのターボルで開催された世界選手権ではエリートカテゴリーで競い合い、勝者になったのはサラブレッドのファンデルプールだった。

今シーズン、2人は初めてフルでエリートカテゴリーのレースに出場した。しかし、世界チャンピオンのファンデルプールは、8月に参加したロードレースのツール・ド・ラブニール(フランス)で落車してヒザを負傷し、シクロクロスシーズンに入るのが遅れてしまった。

その間、レースを支配したのはバナールトだった。9月に米国のラスベガスで初開催されたUCIワールドカップ開幕戦で優勝したのを皮切りに、スーパープレステージでもBポストバンク杯でも圧倒的な強さを見せた。しかし彼は「マテューに勝てたら、僕は本当に1番なんだ」と言い、ファンデルプールがいないからこそ自分が勝てるという現状がしっかりわかっていた。

そして、11月半ばにファンデルプールがフィールドに戻ってくると、戦況は変わった。バナールトはエリートカテゴリーで初めてフル出場している疲れが出てくる頃だった。それを尻目にファンデルプールはすぐ調子を取り戻し、アルカンシエルの強さをライバルに嫌というほど見せつけた。

ファンデルプールはUCIワールドカップを12月下旬の第4戦から4連勝し、1月31日にベルギーのフーズデン・ゾールドルで開催された世界選手権を迎えた。もちろん彼は優勝候補の筆頭で、連覇は確実だと思われていた。彼自身、世界選直前にフーズデン・ゾールドルは得意なコースだと公言していた。

1年前のターボル世界選でバナールトはファンデルプールに負けて2位だったのだが、ファンデルプールがあまりにも強すぎるせいか、ベルギーでは今シーズン限りで引退を表明している39歳のスワン・ネイスの方が世界タイトル獲得を期待されていた。

 

予想外のアクシデント

連覇を期待されていたオランダのマテュー・ファンデルプール
連覇を期待されていたオランダのマテュー・ファンデルプール
 
初日につづいて雨天となった男子エリートのレースは、1周目からファンデルプールが先頭に立ち、そのまま独走してしまうのではないかと思われたのだが、同じオランダのラルス・ファンデルハール(ジャイアント・アルペシン)とバナールトがそれを許さなかった。

中盤にはベルギーのケビン・パウエルス(マルルクス・ナポレオンゲームス)、ローレンス・スウェーク(ERAリアルエステート・ミュルプロテック、ネイスが合流し、先頭は6人になった。

そこからいつ、誰が最初に仕掛けるのかと緊張感が高まるなか、ファンデルプールとバナールトの2人に思わぬアクシデントが降りかかった。先頭のファンデルハールの後ろを走っていたファンデルプールは、雨でぬかるんだ泥の坂を上りそこなって体制を崩し、すぐ後方を走っていたバナールトの自転車の前輪に右足を突っ込んでしまったのだ。

スポークの間にひっかかったファンデルプールの右足はなかなか抜けず、バナールトが手を貸してやっと外すことができた。しかし、その間にもライバルたちは次々と2人を追い越していった。

このアクシデントで、連覇を期待されていたファンデルプールはリズムを崩してしまったが、バナールトはこの逆境を味方につけた。彼はけっしてあきらめない男だったのだ。
 
後半に独走をつづけたオランダのファンデルハール
後半に独走をつづけたオランダのファンデルハール
 
ファンデルプールとバナールトが思わぬ足止めを食らっている間に、オランダのファンデルハールは先頭で独走を始めていた。残り3周で、バナールトはファンデルハールに16秒遅れてしまっていたが、チームメイトの助けを借りて次第にその差を詰め、最終周回に入る前にファンデルハールを捕らえた。

最終周回は、バナールトとファンデルハールが抜きつ抜かれつの大激戦を繰り広げた。その後方では、ファンデルプールが3番手を走っていたが、2人の背中を捕らえることもできなかった。

そして最後の上り坂でファンデルハールを突き放したバナールトは、そのまま差をつけて坂を下り、単独でホームストレートに飛び出した。地元ベルギーの大歓声に迎えられたバナールトは、2位のファンデルハールに大差を付けてゴールし、大躍進のシーズンを締めくくる世界タイトルを獲得したのだ。

大金星を逃したファンデルハールは「ウォウトはとても強かった。彼がホームでのレースという重圧を受けてくれたらいいなと思ったが、残念ながら追いつかれてしまった。僕は1つだけミスをした。上りでチェーンがアウターに入ったままで、それでウォウトに置いていかれてしまったのさ」と、敗因を語っている。

2人の激戦の後方で、集中力を失ったファンデルプールはパウエルスとネイスに抜かれ、5位でレースを終えて表彰台に上がることすらできなかった。偉大なチャンピオンの血を受け継いだサラブレッドとは言え、彼はまだ21歳なのだと、誰もが感じた瞬間だった。


21歳で世界の頂点に立ったバナールトは「序盤には自分が強いと感じていけれど、本当にそう確信したのは終盤だった。誰もがマテュー・ファンデルプールのワンマンショーを期待していた。僕は終盤まで待つことを望んだが、マテューとの事故が起きてしまった。最終周回にラルスに追いついたのはまったく完璧だった。差を付けるためにゴールへスパートしたのはキツかった。クレイジーなレースだったよ」と、レースを振り返った。

そしてバナールトはこうとも言っている。「マテューには感謝している。彼に足止めを食らわされて、やっと自分のリズムをつかむことができたのさ」

バナールトとファンデルプール。ベルギー人とオランダ人。世界選での対決は、これで1対1のイーブンになった。宿命のライバルの対決は、当分続くだろう。


 

2016UCIシクロクロス世界選手権 男子エリート結果

1 ウォウト・バナールト(クレラン・バストフートセルビス/ベルギー)1時間05分52秒
2 ラルス・ファンデルハール(ジャイアント・アルペシン/オランダ)+5秒
3 ケビン・パウエルス(マルルクス・ナポレオンゲームス/ベルギー)+35秒
4 スワン・ネイス(ベルギー)+39秒
5 マテュー・ファンデルプール(BKCP・コレンドン/オランダ)+47秒
6 デービッド・ファンデルプール(BKCP・コレンドン/オランダ)+1分03秒
7 ローレンス・スウェーク(ERAリアルエステート・ミュルプロテック/ベルギー)+1分11秒
8 トム・メーウセン(テレネット・フィデア/ベルギー)+1分23秒
9 ラドミール・シムネク(ERAリアルエステート・ミュルプロテック/チェコ)+1分37秒
10 マルセル・マイゼン(チームクオタ・ロット/ドイツ)+1分43秒

http://www.uci.ch/cyclo-cross/