トピックス

サガンが遂に世界タイトルを獲得! ロード世界選2015

1986年のコロラド・スプリングス大会以来、
29年ぶりにアメリカ合衆国で開催された
UCIロード世界選手権で、
世界一の証であるアルカンシエルを勝ち取ったのは
小国スロバキアから2人のチームメートと参加した
25歳のペーテル・サガンだった…
Photo: Graham Watson

スロバキア初の世界チャンピオン誕生!



スロバキア出身のペーテル・サガン(ティンコフ・サクソ)が、いつか世界の頂点に立つであろうことは誰もが予測していた。弱冠25歳で、彼はすでにツール・ド・フランスで4度ポイント賞のマイヨ・ベールを獲得し、ブエルタ・ア・エスパーニャで区間4勝、ツール・ド・スイスで区間11勝していた。

サガンはゲント〜ベベルゲムでも優勝したことがあり、ミラノ〜サンレモやロンド・バン・ブラーンデレンでは2位になっていた。ワンデイのクラシックレースも得意な彼には、ロードの世界選手権で使われるようなサーキットコースも向いていた。

しかし、小国出身のサガンには、ナショナルチームで競う世界選を大人数でコントロールできるようなチーム力はなかった。彼が1人で稼いだUCIポイントで、米国東海岸のリッチモンドに連れてこられたのは、たった2人のチームメイトだけだった。それは兄のユライと、親友のマイケル・コーラーだった。

9人のフルメンバーでレースの主導権を握ろうと試みるスペイン、イタリア、ベルギー、オランダのような大国に立ち向かうには、ただひたすら集団の中に身を隠し、好機を待つしかなかった。そしてチャンスは2回。リッチモンドの周回コースの終盤に連なっていた2つの石畳の急峻な坂、リッビーヒルとトゥエンティサード・ストリートだ。

リッビーヒルの曲がりくねった石畳の坂で、スロバキアのナショナルジャージを着たサガンはついに集団から姿をあらわし、6番手で坂を上り切った。そして直線のトゥエンティサード・ストリートの激坂でアタックし、先頭に立った。

トゥエンティサード・ストリートのトップをサガンが通過したとき、後続とのタイム差はまださほど開いていなかった。しかしそこからゴールまでの2.6kmを、彼はエンジン全開で疾走した。

それはほんの1カ月前に、ブエルタ・ア・エスパーニャでオフィシャルバイクに接触されて転倒し、ひどいケガを負った選手と同一人物とは思えないような、みごとな走りだった。そして牽制し合う後続集団は、サガンを捕らえることができなかった。


ライバルたちをまんまと出しぬいたサガンは、ゴール手前で勝利を確信し、身を起こして悠然とフィニッシュラインを通過した。それは、史上最も型破りな世界チャンピオンが誕生した瞬間だった。

 

29年ぶりの米国大会

勝負どころのリッビーヒルを埋め尽くした観客
勝負どころのリッビーヒルを埋め尽くした観客


44ヶ国の190選手が出場した2015年の世界選手権ロードレースは、米国東海岸のリッチモンドで開催された。意外にも米国でロードレースの世界選が開催されたのは、1986年のコロラド・スプリングス大会以来、実に29年ぶりだった。

開催地のリッチモンドは、ツール・ド・フランスで米国人として初めて総合優勝したグレッグ・レモンが全盛期の80年代後半から90年代前半にかけて、ツール・ド・トランプやツアー・デュポンといったステージレースのコースになっていて、レースファンには馴染み深い都市。

新世代の米国選手にとっては、29年ぶりに祖国で開催された世界選は、過去のドーピング・スキャンダルで受けたダメージを回復し、自転車レースの魅力を米国民にアピールする絶好のチャンスだった。


1周18.1kmのサーキットコースを16周し、261.4kmの長丁場で競われる男子エリートのロードレースで、1周目から逃げ出した8人の中には、星条旗をモチーフにしたカラフルなナショナルジャージを身にまとった、米国のベンジャミン・キング(キャノンデール・ガーミン)が加わっていた。

序盤から集団の先頭を引いてコントロールしていたのは、オレンジ色のナショナルジャージを着たオランダ勢だった。キングが加わっていた8人の逃げが、集団に4分以上のタイム差を付けることはなかった。中盤にくもり空から雨粒が落ち始めたが、幸いひどい降りにはならなかった。

残り6周回に入った時、8人のタイム差は1分にまで減っていた。集団では落車が発生し、イタリアのダニエル・オス(BMC)が棄権した。レースはまだ100km近く残っていたが、イタリアチームは早くも重要なアシスト選手を失ってしまった。

集団はベルギー勢が引き始めてペースが上がり、1周目から逃げていた選手たちは全員吸収された。ここまで24分台だった周回のラップタイムは、ここで21分14秒に縮まっていた。


残り5周回に入り、集団からコロンビアのハーリンソン・パンタノ(コロンビア)がアタックし、カナダのギヨーム・ボワバン(オプタム)、ベラルーシのカンスタンティン・シウツォウ(チームスカイ)、そして米国のタイラー・フィニー(BMC)が加わった。

トゥエンティサード・ストリートでパンタノが先頭から脱落し、3人は30秒差を付けて残り4周回へ突入。コントロールラインはフィニーが先頭を引いて通過していった。集団では落車が発生し、フランスのナセル・ブアニ(コフィディス)が遅れていた。

残り3周回に入り、フィニーたちはまだ52秒差を付けていたが、レースはすでに残り50kmを切り、大きく動き出していた。集団はオランダ勢やチェコのロマン・クロイツィーゲル(ティンコフ・サクソ)が引き、逃げはリッビーヒルの前で捕まってしまう。


 
終盤に逃げたボーネンは、石畳の坂で力強い走りを魅せた
終盤に逃げたボーネンは、石畳の坂で力強い走りを魅せた


ゴールまでは残り35km。トゥエンティサード・ストリートは英国のイアン・スタナード(チームスカイ)が先頭で駆け上がり、そのまま集団に差をつけた。彼を追って、ここでさらに6人が集団から先行した。

先頭はスタナード、オランダのバウケ・モレマ(トレック)、ベルギーのトム・ボーネン(エティックス・クイックステップ)、コスタリカのアンドレイ・アマドール(モビスター)、イタリアのエリア・ビビアーニ(チームスカイ)、スペインのダニエル・モレノ(カチューシャ)、そしてディフェンディングチャンピオンであるポーランドのミハウ・クフィアトコフスキー(エティックス・クイックステップ)と強力な顔ぶれがそろう。

7人はドイツ勢が引く集団に18秒差を付けて残り2周回へと突入した。残り20kmのリッビーヒルの石畳は、元世界チャンピオンのボーネンが先頭に立ち、力強い走りを見せたが、集団はすぐ後方に迫っていた。


 
“ その時 ” が来るまで、集団の中で待ち続けていたサガン          
“ その時 ” が来るまで、集団の中で待ち続けていたサガン          
終盤にアタックし、見せ場を作った米国のファーラー          
終盤にアタックし、見せ場を作った米国のファーラー          
ゴールでサガンを待っていたガールフレンドのカテリーナさん          
ゴールでサガンを待っていたガールフレンドのカテリーナさん          
7人にはリッビーヒルを越えた後で追走グループが合流したが、逃げ切ることはできなかった。先頭グループは残り17kmで集団に吸収され、大集団で最終周回へと突入した。

いくつものアタックが続いたあと、残り11kmでイタリア勢がコントロールする集団からベラルーシのシウツォウがアタックし、米国のタイラー・ファーラー(MTN・クベカ)が合流。しかしベルギーとイタリアが追い上げ、2人はリッビーヒルの手前で吸収され、レースは集団のままクライマックスを迎えた。


最後のリッビーヒルの石畳を先頭で駆け上がったのは、元シクロクロス世界チャンピオンであるチェコのズデネク・シュティバル(エティックス・クイックステップ)だ。

しかし、その後ろにはドイツのジョン・デゲンコルプ(ジャイアント・アルペシン)、ベルギーのグレッグ・バンアーベルマート(BMC)、ノルウエーのエドワルド・ボアソンハーゲン(MTN・クベカ)がぴったり食らいついていた。

ここで集団の前方には、ついにスロバキアのサガンが姿をあらわし、6番手でリッビーヒルを上り切った。そしてつづくトゥエンティサード・ストリートの直線の石畳の坂をベルギーのバンアーベルマートが集団の先頭で上り始めた時、サガンは後方からアタックし、バンアーベルマートを抜いてトップに踊り出た。

ゴールまで残り2.6kmを残し、集団から抜け出すことに成功したサガンは、フルパワーで独走を開始。得意な勝ちパターンに持ち込んだ。その後方では、バンアーベルマートやボアソンハーゲンが、サガンを捕らえようともがいていたが、それは虚しい試みだった。

 
トゥエンティーサード・ストリートの石畳の坂で決定的なアタックを決めたサガン!                                       
トゥエンティーサード・ストリートの石畳の坂で決定的なアタックを決めたサガン!                                       
遂に世界タイトルを獲得し、祖国スロバキアに初のアルカンシエルをもたらしたサガンは、レース後にこう語っていた。「今日僕はただずっと待ち続けた。その間、チームメイトである兄のユライと友達のマイケル・コーラーがずっと一緒にいてくれた。そして正しい瞬間にアタックを決められた」

「世界チャンピオンになったなんて、本当に信じられない。アルカンシエルは僕にとって最高のものだ。これで選手生活を辞められる…ジョークだけどね」

 

UCIロード世界選手権 男子エリートロードレース結果

1 ペーテル・サガン(スロバキア/ティンコフ・サクソ)6時間14分37秒
2 マイケル・マシューズ(オーストラリア/オリカ・グリーンエッジ)+3秒
3 ラムナス・ナバルダウスカス(リトアニア/キャノンデール・ガーミン)+3秒
4 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー/カチューシャ)+3秒
5 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン/モビスター)+3秒
6 サイモン・ゲランズ(オーストラリア/オリカ・グリーンエッジ)+3秒
7 トニ・ガロパン(フランス/ロット・ソウダル)+3秒
8 ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド/エティックス・クイックステップ)+3秒
9 ルイ・コスタ(ポルトガル/ランプレ・メリダ)+3秒
10 フィリップ・ジルベール(ベルギー/BMC)+3秒
(9月27日/リッチモンド(米国)/261.4km)


[過去10年間の世界チャンピオン]
2014 ポンフェラダ(スペイン)  ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)
2013 トスカーナ(イタリア)   ルイ・コスタ(ポルトガル)
2012 リンブルフ(オランダ)   フィリップ・ジルベール(ベルギー)
2011 コペンハーゲン(デンマーク)マーク・カヴェンディッシュ(英国)
2010 ジーロング(オーストラリア)トール・フースホフト(ノルウエー)
2009 メンドリーズィオ(スイス) カデル・エヴァンス(オーストラリア)
2008 バレーゼ(イタリア)    アレッサンドロ・バッラン(イタリア)
2007 シュツットガルト(ドイツ) パオロ・ベッティーニ(イタリア)
2006 ザルツブルク(ドイツ)   パオロ・ベッティーニ(イタリア)
2005 マドリード(スペイン)   トム・ボーネン(ベルギー)
 

女子エリートは英国のアーミステッドが初優勝

女子エリートのロードレースは9選手でのゴールスプリントになり、英国のエリザベス・アーミステッド(ブールスドルマンス)が制して世界チャンピオンになった
女子エリートのロードレースは9選手でのゴールスプリントになり、英国のエリザベス・アーミステッド(ブールスドルマンス)が制して世界チャンピオンになった

リッチモンド世界選 その他の結果

チームTT男子はBMCレーシング(米国)が優勝
チームTT男子はBMCレーシング(米国)が優勝
チームTT女子はベロシオ・スラム(ドイツ)が優勝         
チームTT女子はベロシオ・スラム(ドイツ)が優勝         
男子エリートTTはベラルーシのキリエンカ(チームスカイ)が優勝
男子エリートTTはベラルーシのキリエンカ(チームスカイ)が優勝
女子エリートTTはニュージーランドのビルムセン(ユナイテッドヘルスケア)が優勝
女子エリートTTはニュージーランドのビルムセン(ユナイテッドヘルスケア)が優勝
男子アンダー23TTはデンマークのシュミットが優勝
男子アンダー23TTはデンマークのシュミットが優勝
男子ジュニアTTはドイツのアペルトが優勝
男子ジュニアTTはドイツのアペルトが優勝
女子ジュニアTTは米国のディガートが優勝
女子ジュニアTTは米国のディガートが優勝
男子アンダー23ロードはフランスのルダノワが優勝
男子アンダー23ロードはフランスのルダノワが優勝
男子ジュニアロードはオーストリアのガルが優勝
男子ジュニアロードはオーストリアのガルが優勝
女子ジュニアロードは米国のディガートが優勝
女子ジュニアロードは米国のディガートが優勝