安井行生のロードバイク徹底評論第7回 LOOK 795LIGHT vol.2

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安井ルック・795ライト2

675は予兆にすぎなかったのか。「これがルックの新型フラッグシップ?」 コンセプトモデルのスケッチがそのまま現実世界に飛び出てきたようなその姿に誰もが驚いた。695のオーナーである安井は、そんな795に何を感じ、何を見たのか。泣く子も黙る2016モデルの目玉、ルック・795の美点欠点を好き勝手に書き散らかす徹底評論第7回vol.2。

 

ひねくれ者

安井ルック・795ライト2

795とは対照的にカムテールデザインを多用するピナレロ・ドグマF8

現在のエアロロードの多くに採用されているのがカムテールデザインと呼ばれるチューブ形状だ。カムテールとは、涙滴断面の後端の尖った部分をスパッと切り落としたような断面形状のこと。この形状の発案者であるスイスのウニベルト・カムという人物は、流線形の後部を切り落としても涙滴断面と空気抵抗がほとんど変わらないことを実証し、コーダトロンカ(切れた尻尾という意味)という通称でこの形状を自動車界に広めた。この断面形状は、発案者の名をとってカムテール、もしくはカムバックとも呼ばれる。
 
スコット・フォイルを嚆矢として、いまや多くのメーカーがエアロロードにこのカムテールデザインを採用している。しかし、ウニベルト・カム博士がカムテール理論を確立したのは1930年代後半のこと。自転車メーカーがなぜ今になってこのカムテールデザインに飛びついたのか。UCIルールの範囲内で、しかも剛性や快適性や軽さを犠牲にすることなく空力性能を高めようとすると、カムテールデザインは自転車にとって非常に都合がいいことに気付いたからだ。
 
チューブの断面形状は、空力性能だけでなくチューブの性能(剛性や曲がり方)を決定づける。翼断面形状はどうしても前後に長くなり、縦に硬く、横方向には弱くなる。そのうえチューブの表面積が大きくなるので、それだけ素材が多く必要になり、重くなる。もちろん横風も受けやすくなる。従来の翼断面は、確かに空気抵抗は少ないかもしれないが、ロードバイクのフレームを構成するチューブとしての性能は最悪だったのだ。カムテールデザインならば、剛性、柔軟性、軽量性をさほど犠牲にすることなく空力性能を高めることができる。翼断面ほど前後に長くないので横風に対しても強いし、UCIルールにおいても都合がいい。

安井ルック・795ライト2
しかし、795は最新鋭のエアロロードでありながら、そんないいことづくめのカムテールデザインを採用しない。フレーム全体に前が丸くて後ろが尾を引くようにすぼまっていく伝統的なティアドロップ形状が用いられている。それは一体なぜなのか。
「空力性能はカムテールよりNACA翼型(NACAが定義した翼断面形状)の方が優れています。NACAシェイプ化によってフレーム重量は695より重くなっていますが、エルゴポスト2などの付属品の軽量化で吸収したこともあり、完成車重量は695ライトと同レベルを達成しています。695では3Kカーボンで作っていた箇所を1.5Kカーボンに置き換えたことによる軽量化も効果的でした(確かにフレーム表層のカーボンの織目は細かくなっているが、これが表層だけなのか中の積層も1.5K化したのかは不明)」
 
要するにこれは重量・剛性・快適性などに惑わされずに空力性能を追求した結果というわけだ。695比で8.7%もの空気抵抗削減を実現するそのチューブ形状が、795の特徴その1である。481、585、595、695といつの時代も独得の走り世界を構築してきたフランスのルックだが、エアロロードとなった795でも、ライバル勢とは異なる手法で性能を構築しようとしている。ルックはやっぱりひねくれ者なのである。
さらにルックは、795にそこいらのエアロロードとは一味もふた味も違う個性を持たせた。それが特徴その2、トップチューブとステムが一直線になる斬新なフォルムである。

 

なにがルックをこうさせたのか

安井ルック・795ライト2

ルック・675

これは2012年に発表されたセカンドグレード、675から受け継がれたスタイリングだが、675よりフレーム全体のデザインがこの“一角獣スタイル”に最適化され、ステム回りのデザインとフレーム全体のフォルムとが675より溶け合った印象だ。675で先行投入し、マーケットの反応を見て問題点を洗い出し、満を持してトップモデルに取り入れたのだろう。
 
このデザインを採用した理由について、担当者は「もちろんデザイン上の理由もありますが、機能を追及した結果でもあります。空力性能向上に加え、上側のヘッドベアリングとステムを可能な限り近づけることで、上下ベアリング間の距離を広くとることができ、ヘッド周辺の剛性を高めてハンドリングを安定させることができます。1サイズ大きなフレームと同じヘッドチューブ長をとることができるので、ハンドリングのレスポンス向上につながります」と語る。
 
近年のルックはとにかくヘッド剛性にこだわる。ハンドリングにおいて大切なのはとにかく上下ベアリング間の距離で、これは他の設計やジオメトリーでどうにかなるものではないのだという。しかし、上側ベアリングの位置を高くするだけならわざわざトップチューブ前端を盛り上げて専用ステムを設計して作ってツライチにする必要はない。
675のときに同じ質問(「なぜこんなデザインにしたのか?」)をしたら、「空気抵抗削減とオリジナリティを出すためです。我々は、スタイリッシュな外観は高級ロードバイクにとって重要な要素だと考えています」と答えてくれた。その思想がトップモデルにまで浸透したのだ。

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