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TOJに参戦したNIPPO・ヴィーニファンティーニに密着!【伊豆】

最後の山岳区間だった伊豆ステージでは、エースのチャパッロがクライマーとしての真価を実証した

 

チャパッロが後半の逃げに加わって善戦!

第18回ツアー・オブ・ジャパン(アジアツアー2.1)の第6ステージは、静岡県伊豆市の日本サイクルスポーツセンター(CSC)が舞台となる伊豆ステージ。東京到着を前に、最後の山岳区間だ。

 

第2ステージのいなべから富士山まで、TOJと言えばリアルスタートの前にパレード走行が行なわれるのがおきまりだが、CSCの1周12.2kmの周回コースだけで競われる伊豆ステージはニュートラル区間なしでレースがスタートする。

 

そしてコースは上りと下りしかない、非常に過酷なレイアウトだ。しかし、昨年ここで大量の失格者が出てしまったこともあり、今年は周回数が2周少なく、10周になっていた。

 

総合争いは2つのイランチームが接戦で、タブリスペトロケミカルチームのミルサマド・プルセイェディゴラフールが総合首位でグリーンジャージを着用し、ライバルであるピシュガマン・ジャイアントチームの3選手が追う展開で、ラヒーム・エマミが19秒差、ホセイン・アスカリとアミール・ザルガリが50秒差だった。

 

NIPPO・ヴィーニファンティーニはコロンビア人クライマーでエースのディディエール・チャパッロが1分41秒遅れの総合7位に付けていた。イラン勢が互いにつぶし合う走りをしてくれれば、総合順位が多少は上げられるかもしれない、というのが大門宏監督の予想だった。


選手たちがスタートラインに並んだとき、チャパッロは集団からすこし離れた後方で1人、始まりの合図を待っていた。それは彼にとって、ツアー・オブ・ジャパンで自分の走りを見せられる最後の日だった。

 

伊豆ステージはスタートして1周目から6人がアタックして先行したが、そこにNIPPO・ヴィーニファンティーニの姿はなかった。

 

最初の逃げのメンバーはソーフィアン・ハディ(スカイダイブドバイ)、伊藤雅和(愛三レーシング)、内間康平と寺崎武郎(ブリヂストン・アンカー)、パブロ・ウルタスン(チーム右京)、ラミン・メフラバニアザル(ピシュガマン・ジャイアントチーム)だった。

 

集団はリーダージャージを擁するタブリスペトロケミカルチームがコントロールし、大差がつくことはなかったが、そこから次々と抜け出す選手がいて、先頭の逃げはメンバーが入れ変わっていった。残り6周目に入った時、先頭は9人でメイン集団に1分半のタイム差を付けていた。

 

残り5周目に突入したとき、山岳賞ポイントへと向かう上り坂でメイン集団からピシュガマン・ジャイアントチームのザルガリとホセビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)がアタック。NIPPO・ヴィーニファンティーニのチャパッロも合流し、先頭グループに追いついた。

 

「(チャパッロにはレース前に)ペースが安定するから逃げに入った方がいいと言ってあった。後ろに残っていると混戦になるから、前を逃げていた方がいいものだ。だから彼はどこかで行かなければと思ってずっと見ていて、ザルガリが逃げたから行った方がいいと思ったのだろう」と、大門監督はレース後に話していた。

 

チャパッロが加わった先頭の6人はそのまま逃げ続け、残り3周の山岳ポイントでメイン集団に1分半のタイム差を付けていたが、残り2周で吸収されてしまった。

 

ゴールまで残り20kmでバレリオ・コンティ(ランプレ・メリダ)がアタックしたとき、チャパッロはもう一度トリビオとともに追走した。3人が逃げ出した形で最終周回へと突入したが、メイン集団はこの逃げを許しはしなかった。

 

しかし、集団に捕まった時にコンティがカウンターでもう一度アタックを仕掛けた時には、チャパッロも付いては行けなかった。彼だけではなく、コンティに付いて行く選手は誰もいなかった。みんな彼が逃げ切れるとは思わなかったのだろう。

 

しかし、コンティは順調に逃げ続け、集団から9人が追走を開始した時はもう遅かった。22歳のコンティはそのまま後続に5秒差を付けてフィニッシュラインに飛び込み、ランプレ・メリダに今大会初の勝利をもたらしたのだ。

 

チャパッロはコンティから5秒遅れの区間6位でレースを終えた。リーダージャージを着たプルセイェディゴラフールは9秒遅れの区間8位だったが、総合首位の座はきっちり守っていた。

 

この日、大門監督が心配していたNIPPO・ヴィーニファンティーニの2人のスプリンター、黒枝士揮とニコラス・マリーニは無事完走したのだが、キャプテンのマッティア・ポッツォが終盤に失速し、残り1周を前にレースを降りてしまった。

 

ポッツオはずっと好調だったのだが、この日はハンガーノックになってしまったのだと言う。これでNIPPO・ヴィーニファンティーニは、キャプテンなしで東京ステージを闘わなければならなくなってしまった。


クライマーとしての真価を実証したチャパッロ

「イランの2チームはどちらも力があり、ああいう風に彼らが手を組まずに正々堂々戦う展開になってしまったら、もう彼ら次第で、今日は他力本願のレースだった。そんな中でもチャパッロはがんばったと思う」と、NIPPO・ヴィーニファンティーニの大門宏監督は、伊豆ステージでのチームエースの走りを評価した。

 

「今日はレース的には、みんながワクワクするような展開だった。ああいう展開だったら、後ろに残っていても結果的には一緒だっただろう。単騎だったらまだ勝負できるかもしれないが、ああやって束になってこられると、イランの2チームは力がある」今日はそのワクワクするようなレース展開を作った選手のなかにチャパッロも入っていたわけだ。

 

「(一緒に逃げたとき)コンティは全然引かなかったとチャパッロは言っていた。だから彼が引くしかなかった。それは当然だ。コンティがチャパッロと協力するわけなかった。コンティは後ろとの距離を見ていて、絶対優勝しか狙ってなかった」

 

最後にカウンターでコンティがもう一度アタックしたとき、チャパッロも付いていければよかったのではと聞くと、大門監督は「チャパッロはずっと逃げていたから、あのタイミングで後ろからコンティには付いて行けなかったのだろう」と、分析していた。

 

「ラスト1周になってもまだ前に30人くらいいて、脚が余っている奴らばかりだった。だから多分みんなコンティは捕まると思っていのだろう。ゴールで追い込めると思っていたら、あー行っちゃった、みたいな感じだった。コンティに付いて行けばよかったと思った選手はいっぱいいると思う」

 

「今日はコンティみたいなことができた選手は結構いたと思う。うまいことやりやがって、とみんな思っていたと思う。コンティは力もあるが、自分の力の出しどころよく知っている。さすがだと思った」


『アレドンドが薦める選手は絶対取りたいと思っていた』

27歳のディディエール・チャパッロは、同じコロンビア出身でかつてチームNIPPOで活躍したフリアン・アレドンドが大門監督に紹介した選手だった。チームが見つからず、引退も考えていたチャパッロはアレドンドのおかげでNIPPO・ヴィーニファンティーニのようなUCIプロコンチネンタルチームとの契約を得ることができたのだ。

 

「僕がアレドンドから得たものは大きかった。それは成績だけではなく、彼の人間性もだ。彼は日本のチームメートにいい影響を与えてくれた。アレドンドにはすごく感謝している。だから彼から言われたら、ボクは絶対取りたかった」と、大門監督は熱く語った。

 

NIPPO・ヴィーニファンティーニはクライマーを探してはいたが、病気で2年間ほとんど成績がなく、無名ですでに27歳の選手を雇うことには、チーム内で批判的な意見も多かったという。

 

「コロンビア人の中にはドーピングとかであまり評判がよくない選手もいる。上りの選手を探してはいたが、何故27歳の選手を今から取らなければならないんだとか、病気で2年間棒にふってチームが見つからないような選手をなぜ取るんだという意見もあった」

 

大門監督にしてみれば、ツアー・オブ・ジャパンでチャパッロがクライマーとしての真価を実証してみせたことは、監督自身の選択が正しかったことを他のチームスタッフに証明したことにもなったわけだ。

 

「上りの選手としてチャパッロを雇ったことが、自分のチームにとって正しい選択だったのを証明できたのはよかった。ボクは見る目があると言われたくてやっているわけではない。ただアレドンドから言われて、彼には世話になったから、彼を信用してチャパッロを連れてきただけだ」と、大門監督は繰り返した。

 

「アレドンドが薦める選手は絶対取りたいと思っていたが、2年間成績がなかったのでチャパッロが本当に走れるのか、強いのかは疑っていた。でも今日、あれだけ走れれば十分だ。彼は合格だ。今のチームにとって、彼はダミアーノ・クネゴの次の上りに強い選手だと思う。彼なら上りでクネゴのアシストができるだろう」

 

チャパッロは昨年10月からずっとレースを走っておらず、今季途中でNIPPO・ヴィーニファンティーニと契約したあとも、ビザの問題でワンデーレースを1レースしか参加できずに来日していた。

 

ツアー・オブ・ジャパンでも第3ステージの朝にはまだ「上りのリズムが戻っていない」と話していたのだが、チャパッロはステージを重ねるごとにリズムを取り戻し、調子を上げていったわけだ。

 

「チャパッロ自身にとってもよかったと思う。彼は本当に救われたわけだ。もう可能性はないと思っていたらしい。彼はボゴタのような都会ではなく、マニザレスに住んでいて、去年はコンチネンタル以下のチームで細々と走っていた。これからの活躍に期待したい。契約は1年なので、来年も契約できればいいなと思っている」と、大門監督は本当に喜んでいた。

 

区間優勝のようなセンセーショナルな出来事はなかったが、日本のレースがきっかけとなり、チャパッロがふたたびプロ選手としてのキャリアを続けることができるのは何とも誇らしい話だ。


心配していたスプリンターのマリーニが無事完走

NIPPO・ヴィーニファンティーニにとって、伊豆はエースクライマーの真価が証明できたステージになったが、その一方でキャプテンのポッツォがハンガーノックでレースをリタイアしてしまう想定外の出来事もあった。

 

「今日はニーバリの方が心配だった。彼は結構弱気なことを言う奴で、チームカーで抜いていくときも今日は体中痛いとか調子が悪いとか言っていた。だからNIPPOのジャージの選手が止まっていると聞いた時、ああニーバリかなと思っていて、ポッツォだとは思わなかった」と、大門監督も彼のリタイアは意外だったようだ。

 

「明日(東京ステージ)のことを考えると残念だが、今年はマリーニの優勝にも貢献しているし、チームのムードメーカーとして役立っていた」

 

「そのかわりマリーニが最後まで走れた。ポッツォはマリーニのところまで落ちた時に一言二言声をかけていて、それでマリーニがちょっとは助かった部分もある。残念だが責めるつもりはない」と、語っていた大門監督。マリーニが30分近く遅れてゴールしたときには、本当にうれしそうに出迎えていた。

 

「山本は今日よくなかった。もともと上りを走れる選手ではないので、昨日(富士山)無理をしたのかもしれない。もうちょっとがんばって欲しかった。でも今日は代わりにブリヂストン・アンカーの寺崎ががんばっていた。こういうことをやっていると、日本人で誰ががんばっているのかを見に来ているのもある。寺崎は今日は強かった。彼も向いているコースではなかったはずだ」毎日他のチームの日本人選手の走りを気にかけていた大門監督が、初めてほめたのがこの日逃げた寺崎だった。

 

大阪の堺市で開幕したツアー・オブ・ジャパンは、一週間の闘いを終え、ついに東京へと到着した。最終ステージはスプリンターがふたたび主役になり、NIPPO・ヴィーニファンティーニはマリーニが美濃につづいて2勝目を狙っていく。

 

「明日はポイント賞も狙っていく。やれることはやる。明日勝って中間スプリントも取ればだが、逃げを許したらダメなので、ちゃんとチームで考えていく。(区間は)勝てるかどうかはわからないが、勝てるように努力はする。ゴールは幅が広いのでそう上手くはいかないとは思う。マリーニは(今日完走したことで)逆に体に負担をかけていて、明日はもう全然脚が重くてダメだったと言うかもしれない」と、大門監督は話していた。

 

泣いても笑っても、TOJはあと1ステージだ。




■ツアー・オブ・ジャパン 第6ステージ(伊豆)結果

1 バレリオ・コンティ(ランプレ・メリダ/イタリア)3時間26分58秒

2 ルーカ・ピベルニク(ランプレ・メリダ/スロベニア)+5秒

3 トマ・ルバ(ブリヂストン・アンカー/フランス)+5秒

6 ディディエール・チャパッロ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/コロンビア)+5秒

57 山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+17分26秒

73 黒枝士揮(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+19分18秒

86 ニコラス・マリーニ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+28分36秒

87 アントニオ・ニーバリ(イタリア)+28分36秒

DNF マッティア・ポッツォ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)

■第6ステージまでの総合成績

1 ミルサマド・プルセイェディゴラフール(タブリスペトロケミカルチーム/イラン)14時間00分39秒

2 ラヒーム・エマミ(ピシュガマン・ジャイアントチーム/イラン)+24秒

3 ホセイン・アスカリ(ピシュガマン・ジャイアントチーム/イラン)+52秒

7 ディディエール・チャパッロ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/コロンビア)+1分37秒

43 山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+24分35秒

54 アントニオ・ニーバリ(イタリア)+35分18秒

72 黒枝士揮(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+54分02秒

84 ニコラス・マリーニ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+1時間08分47秒

(http://www.toj.co.jp/2015/)