安井行生のロードバイク徹底評論 第2回 GURU Photon SL vol.2

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安井フォトンSL2

670gの超軽量フレームを作る技術を持ちながら、フルオーダーが基本という姿勢を貫くカナディアンブランド、グル。いかにも北米らしいスッキリとした雰囲気をまとうこのブランドは、何を考え、どこを目指して自転車を作るのか。カナダ自社工場の製造工程とフォトンSLのインプレッションを通じて、先鋭と人間臭さが複雑に混じりあうグルの製品哲学に迫る。vol.2。

 

フレーム価格60万円オーバーの理由とは?

安井フォトンSL2

試乗するのはオールラウンドモデルとなるフォトンSL。日本の代理店がXSサイズの試乗車を用意してくれたのだ。価格はフォトンシリーズで最も安いというから30万円かそこらかと思っていたら、なんど60万円以上もする(フルオーダーの場合。既製ジオメトリーは約50万円)。驚いてカタログを見てみると、トップモデルのフォトンHLは堂々の90万円超。コルナゴ・C60が安く思えるこのカナダのグル、実はパッソーニ並みの高価格帯ブランドなのである。
 
歴史も知名度もないに等しいブランドにしては随分と強気の価格設定だが、もちろんそこには理由がある。軽さと高価格の秘密を、代理店担当者から聞いたフレームの製造工程を追いながら紐解いていこうと思う。

 

理想主義的な製造プロセス

安井フォトンSL2

基本的にはフレーム接合部の角度がコロコロ変わるオーダーフレームなので、量産モノコックフレームのように金型を作って鯛焼き方式でポンポン作ることはできない。そのため、フォトンのフレームは自由度の高いチューブtoチューブ製法で作られる。
しかし、ただのチューブtoチューブではなかった。グルがフルオーダーでカーボンフレームを作る場合、お客のジオメトリーに合わせてカーボンシートをカットするところから始める。ジオメトリーから最適なシート形状を計算し、カットに必要なデータを作るところからフレーム製造がスタートするのだ。
チューブの接合角度だけでなく、チューブを形成するカーボンシートの形状もフルオーダー。グルのオーダーとは「カーボンシートのカッティングデータ作成から始まる、本当に一からのフルオーダー」なのである。
 
安井フォトンSL2 安井フォトンSL2
なぜわざわざそんな面倒なことをするかというと、「既存パイプの長さや角度を変えるだけでは、各々のジオメトリーに最適な性能が出ないから」だという。理想主義的なオーダーフレームの作り方をするブランドなのだ。だんだん高くてもしょうがないと思えてくる。
カーボンシートは、顧客が希望するジオメトリーに最も適するように、かつシート同士が重複する面積が最小限になるようにカットされ、性能を出しつつ無駄な重量を排除する。この工程は驚くほど精密に行なわれるというが(そうでもしないとチューブtoチューブでフレーム重量670gは実現できないだろう)、それを正確に貼っていく職人的な製造技術も必要とされるだろう。本国自社生産でこそ実現できる製造法だといえる。