トピックス

キャノンデール 2015年モデル、次世代ハードテール・F-Si

各メーカーのホイールサイズ29er化が完了し、大きなイノベーションは終わったように思えたXC向けのハードテールMTB。確かにディーテールに目を向ければ、ドライブトレインの1×11速化や、カーボン成型技術の向上による軽量化、前後ハブのスルーアクスル化などはあるものの、それらは既定路線上の進化に過ぎない。


 
text●鏑木 裕、photo●吉田悠太

AIドライブトレイン採用で ハードテールはまだ進化する

 

キャノンデールが2015年モデルとしてリリースしたF-Siは、ハードテールXCバイクとしてドラスティックな進化を遂げた存在である。その中核となるのが、ドライブトレインをそっくり外側へ6mm移動させてしまった、アシンメトリック・インテグレーション(AI)ドライブトレインだ。

 

チェーンリングとスプロケットを6mm外側へと出すことで、ドライブトレイン全体とリヤタイヤとのクリアランスを確保。一方で、フレームのリヤバック部分も6mm並行移動しているため、そのまま既存ホイールを組み込むと後輪リムとフレームセンターがズレてしまう。

 

これを補正するために、後輪のオフセット量(オチョコ量)を調整して、フレームのセンターにリヤタイヤが重なるよう補正している。

 

チェーンリングとスプロケットの位置を右側へ並行移動させるというアイディア自体は、たとえばサーリー・パグスレイに代表されるファットバイクでは当たり前の仕様となっているが、ファットバイクではあまりに太いリヤタイヤとチェーンとの干渉を防ぐのが主な目的であった。

 

もちろんF-Siでも、リヤタイヤとチェーンのクリアランス確保もメリットとして挙げられるが、それだけに止まらない効果を求めての結果なのである。

 

驚異の429mmチェーンステーが 優れた登坂能力を発揮する

 

直接的にはドライブトレインとリヤタイヤとのクリアランス確保を目的としたAIドライブトレイン。その真の目的は、チェーンステー長の短小化と、リヤホイールの強化にある。

 

まずはチェーンステーから。多くの29erバイクでは、ホイール径が大きくなった分だけ、チェーンステーを長くせざるを得ない。長いチェーンステーはバイクの挙動を緩慢にさせ、倦怠な走行フィーリングを与えがちだ。

 

F-Siでは、これまで不可能とされていたアンダー430mmを実現。F-Siの429mmという数値は、一般的には27.5インチバイクの数値であり、ジャイアントXTR27.5の430mmを下まわる。それまで最短とされていたスペシャライズド・SWスタンプジャンパーHT29も430mmで、わずか1mmではあるが越えてきたのだ。

 

もうひとつのリヤホイールは、いわゆる“オチョコ”と呼ばれる左右のスポーク差がほぼなくなる、という利点がある。ドライブトレインが6mm右へ移動した分、リムを6mm左へ戻すことになるのだが、これはちょうどもともとのホイールが持っていたオチョコ量。つまり、左右のスポークを均等に張れるのだ。

 

均等なスポークテンションを持つホイールは、左右バランスに優れ、高い強度と剛性を示す。それを重量の増加なし、なおかつ特殊なパーツを必要とせずに実現できてしまうのだ。ちなみにキャノンデールによると、この6mmオフセットにより、60%もの剛性アップを実現しているという。

 

これら2つの結果、F-Siはコーナーでの鋭い旋回性と、ギャップでの優れた安定感、そして上りでのしっかりとしたトラクション性能を得ることとなった。

多くの29erバイクの欠点であった、リヤタイヤへの荷重減少や、後輪剛性の乏しさが解消されたことで、後輪の通るラインや、ギャップを越えるタイミングなどをライダーが把握しやすいのである。

 

もうひとつの進化 オフセット55mmのレフティ2.0

 

さて、F-Siを語る上でもうひとつ重要なのが、フロントフォークとバイクディメンションだ。

 

まずフロントフォーク。キャノンデールが手掛ける片持ち倒立オークのレフティは、今回2.0へとアップデートされた。従来品(これをあえて1.0と呼ぼう)との差異は、まずクラウン幅。1.0の上下クラウン間隔が134mmの1種類だったのに対して、2.0ではフレームサイズ毎に用意されることになった(S:97mm/M:110mm/L:122mm)。

 

そしてフォークのオフセット量も45mmから55mmへと大きくなっており、そのオフセットさせる場所もクラウン部分ではなく、エンド部分になっている。

 

これらによって、ハンドル位置を低く近くすることが可能となり、とりわけ小柄なライダーにとってはこの上ない朗報となることだろう。

 

 

一方のディメンションは、ヘッドアングルを大きく変えてきた。それまでの同社のバイク、F29が71°だったのに対して、F-Siでは69.5°というように、1.5°も寝かせているのだ。

 

単にヘッドアングルを寝かせただけだと、直進性が強くなりすぎてしまう。ただでさえ緩慢な29erが、本当にダルい自転車になりかねないのだ。それを補正するためにも、フォークのオフセット量を10mm増やしているのだ。

 

フレームのディメンションには“トレイル”という数値があるのだが、ハンドリングを大きく決めるこのトレイル量をキープしつつ、ヘッドアングルを寝かせている。

そしてバイク全体で見ると、リヤセンターを詰めて、その分フロントセンターを伸ばす、という設計なのである。

 

この考え方自体はゲーリー・フィッシャー氏が先だって“ジェネシス”と、その後の“G2”ですでに実践しているが、同様のことをドライブトレインを含めたバイク全体で再設計したのがここにあるF-Siと言えそうだ。

 

レースコースの変化が バイクの進化を促している

 

ハイエンドなバイクの進化は、多くの場合レース環境や選手の変化に呼応している。F-Siなどはまさにその典型であろう。

 

XCレースは、2004年のアテネオリンピック後に大きく変化した。ギャラリーをいかに楽しませるか、というショー的な部分が加味されるようになり、下りはダウンヒルコースのように激しい人工セクションが作り込まれるようになったのだ。

 

たとえば2008年の北京オリンピック、そして2012年のロンドンオリンピック。ともに激しいロックセクションやドロップオフ、大きなバームが造成されて、そこをフルスピードでライダーたちは走り抜ける。ワールドカップでも同様だ。そして、そういった危険なセクションでライダーを躊躇させるようなバイクでは、もはや勝負できないのである。

 

このため、障害物に弾かれても前輪がブレないハンドリングを実現しつつ、走行ラインを思い通りに変えられる俊敏さも共存させなくてはならない。寝かされたヘッドアングル、大きめのフォークオフセット、短いチェーンステーは、そんなレースに対応するための進化なのである。

そして同時に、これは一般ライダーにとっても実は歓迎すべき変化なのだ。

 

テクニカルなセクションでの安定感は、スピード域に関わらずライダーに余裕を与えることになり、その余裕は場合によってはスピードアップに、もしくは危険回避に、はたまた心拍を抑えることに作用する。

上りでの良好なトラクションは、たとえばブロックの乏しいタイヤの使用を可能にするだろう。セミスリック系タイヤを使えれば、舗装路やハードパック路面では転がりが軽くなって、身体面でのアドバンテージも期待できるのだ。

 

キャノンデールは、昔から“キャノンデールらしさ”を追求しているブランドだ。“らしさ”とは、既成概念にとらわれない斬新なアイディアと、それを実現する情熱だ。F-Siは一見すると普通のXCバイクだが、ここに詰まっているのは紛れもなくキャノンデールらしさなのである。

 

 

【フロントフォーク】(写真左下)

レフティ2.0カーボンXLR100-29。オフセット量55mmの多くを、エンド部分で稼いでいる。軽量性と剛性に優れており、コーナーや大きなギャップでの安心感は高い。ロックアウトは、ロックショックスのオイル方式である、Xロックスプリントが搭載される。

 

 

【AIドライブトレイン】(写真右下)

真後ろから見ると、リヤバック全体が右側へとオフセットしているのが分かる。アシンメトリック(非対称)な6mmが、フレームのディメンション変更、リヤホイールの強化に繋がっているのだ。

 

 

 

 

【ステム&クラウン】

レフティ2.0では、クラウン部分でのオフセット量が少なくなり、短いステムが装着可能となった。また上下のクラウン幅もヘッドチューブ長に応じて3種類が用意されている。小柄なライダーには朗報だ。

 

【FD台座部分】

完成車はスラム・XX1による1×11ドライブトレインが装着されている。しかしフロントディレーラーを装着できるよう、台座用のボルト穴はしっかりと用意されている。また将来的な電動変速化も見据えて、シマノEチューブのケーブルを通す穴も開けられている。

 

 

【ホイール】

エンヴィのカーボンリムは、チームカラーのグリーンに染められているものの、通常の29XCクリンチャー。AIドライブトレインの特徴は、既存のリム/スポーク/ハブで前後ホイールを作れる点も挙げられる。

 

 

【ライディング】

テストフィールドは八ヶ岳山麓のシングル&ダブルトラック。上りでは後輪の位置を把握しやすく、根や岩といった滑リヤすいセクションでのトラクションをシビアにコントロールできる。下りでは小さなギャップからドロップオフまでしっかりと前輪が追従して、優れた走破性を実感できた。

 

問い合わせ先

キャノンデール・ジャパン
http://www.cannondale.co.jp