安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.9

目次

安井ドグマF8-9

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。vol.9

 

ドグマ65.1 vs ドグマF8、新旧比較

安井ドグマF8-9

さて、走りにおいてドグマF8はどう変わったのか。今回、同じサイズ(46.5)のドグマ65.1とドグマF8を用意してもらい、同条件で比較した。このような主力モデルの場合、「乗ってどうだったか」だけではなく「どの方向に、どれだけ進化したか」が重要になる。新旧の比較を通じて、進化の方向と幅を探るのである。
まず前作ドグマ65.1に乗る。安定感、重厚感、軽快感が絶妙にブレンドされた走りに改めて感動する。加速プロセス後半で背中を押し出すような“濃いトラクション”が魅力だ。これぞ名車。今頃「買うべきだったかも」と後悔する。
 
そんな「グワッと加速してドカーンと伸びてスルリと回ってギュッと止まる」というドグマ65.1に対し、ドグマF8は「パーンと加速してスコーンと伸びてクルッと回ってガッと止まる」という感じ。よく言えば過激に、悪く言えば神経質に。タメを残しつつ走るタイプではなくなったのだ。二次曲線的な加速の伸びを見せる従来のドグマに対し、ドグマF8は入力とトラクションの関係が線形で、ペダルの入力に対してタイムラグなくリニアに加速していくのである。

 

「加速がいい=硬いフレーム」とは限らない

瞬間的な加速の良し悪しについては判断が難しい。絶妙なしなりがある65.1のほうが反応がいいと感じられるシチュエーションも多いからだ。勘違いしたまま書かれている文章も多いが、「加速がいい=硬いフレーム」とは限らない。いわゆる“嫌な硬さ”を持っているフレームは、ペダルを踏んでもフレームは頑として動こうとしないため、ペダルがなかなか下がって行かないという印象を乗り手に与え、それが「加速が悪い」と感じる一因になる。しかし、無条件に「加速が悪い=フレームが柔らかい」と思い込んでいる人が多い。

 同じように、「加速がいい」と感じられるフレームは、絶妙なしなりによってペダルがスッと下がっていくため、ペダルがどんどん回っていくという印象になることがある。ヒュンとしなってピュンと戻るという“良質なしなり”を備えたフレームのほうが「加速がいい」と感じられることも多いのだ。これを「加速がいいから硬いフレームだ」と断言してしまう人がいる。確かに判断しにくいところなのだが、乗ってその印象を文章にすることで生計をたてているプロがこれをやってしまってはマズいだろう。ドグマF8は、ドグマ65.1より間違いなく硬い。