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カンチェがマイヨ・ジョーヌを死守! ツール序盤戦ハイライト

リエージュで開幕したツール・ド・フランスは、落車が相次くサバイバル戦になってしまったが、プロローグを制したカンチェッラーラが総合首位の座を1週間守った
Photo: Graham Watson / Lampre-ISD

復活したカンチェッラーラがマイヨ・ジョーヌを獲得!

記念すべき100回大会まであと1回になったツール・ド・フランスが、6月30日に隣国ベルギーで開幕した。世界最古のクラシックレース『リエージュ~バストーニュ~リエージュ』でレースファンにはお馴染みの、ワロン地方のリエージュで行われた初日のプロローグで優勝したのは、スイスのTTスペシャリスト、ファビアン・カンチェッラーラ(レディオシャック・ニッサン)だった。今シーズンは4月1日にベルギーのフランドル地方で行われたロンド・バン・ブラーンデレンで落車し、鎖骨を骨折してクラシックシーズンを棒に振り、5月中旬にはレース復帰したが、ツール直前のツール・ド・スイスでは得意のTT区間で勝てなかった。しかし31歳のベテランは、しっかりとツール開幕に調子を合わせてきたのはさすがだ。スイスTT選手権を制してナショナルジャージを着て挑んだ6.4kmの『時計との闘い』で、カンチェッラーラは平均時速53.2km/hでリエージュ市内を駆け抜け、最初のマイヨ・ジョーヌを獲得した。「この勝利は今後のレースにすごくモチベーションを与えてくれる。落車の後に過ごした難しい数ヶ月のあとで、初日にまた勝つことほどいいスタートはなかっただろう。まったく素晴らしいね。ボクは幸せだし、何よりもプレッシャーがなくなったよ」と、喜びを語ったカンチェッラーラがツールのプロローグで優勝したのは、2004年、2007年、2009年、2010年に続いて5回目で、フランスの英雄ベルナール・イノーの記録に並んでいる。

しかし、カンチェッラーラの記録作りはこれで終わりはしなかった。彼は落車が相次いでサバイバルレースとなった今年のツール前半戦で生き残り、第7ステージではマイヨ・ジョーヌ着用日数が28日間になる。これは歴代11位のすばらしい記録だ。次の記録はアンドレ・ルデュックとオッタビオ・ボテッキアが持つ34日間。週末の山岳ステージで生き延びられれば月曜日は個人TT区間なので、記録を伸ばせるチャンスもあるだろう。カンチェッラーラの所属するルクセンブルクのレディオシャック・ニッサンは、総合優勝を狙うはずだったアンディ・シュレクが直前のクリテリウム・デュ・ドーフィネで負傷して欠場。さらにチームマネージャーのヨハン・ブリュイネールも、米国アンチドーピング機関(USADA)からアンチドーピング規則違反容疑でランス・アームストロングと一緒に告発されてしまった影響でツールへの参加を見送った。今年は事故やスキャンダルが続いてチーム全体に暗い影が落ちていたが、カンチェッラーラのこの活躍でふたたび輝きを取り戻している。

初出場のサガンが序盤で3勝と大暴れ! 

すぐれた才能や力があっても、期待に答えられるかどうかは運次第、というのが自転車競技の世界だが、22歳でツール初出場したピーテル・サガン(リクィガス・キャノンデール)は序盤から期待以上の活躍を見せてくれた。プロローグでは走行中にバランスを崩すシーンがあってヒヤリとさせられたが、翌日の第1ステージでは、ゴールになっていたスランの丘で早速本領を発揮した。スロバキアチャンピオンは残り1.5kmでアタックしたマイヨ・ジョーヌのカンチェッラーラの後ろにピタリとつくと、スイス特急に乗ってゴールまで駆け上がり、最後は難なくスプリントでマイヨ・ジョーヌを破って初区間優勝を手中に収めた。「最高のチャンスだと知っていた。でもツールではトップコンディションで最高の選手たちと競わなければならないものだ。スタートしたときは、調子がいいとは感じていなかったんだけど、レースが進むにつれてよくなっていった。それで勝てるチャンスがあるにちがいないと考えた。コントロールするのがとても容易ではない状況で、ボクを前に運んでくれたチーム全員に感謝しなければいけない。最後の上り坂で、最初は自分の力で行こうかと思ったんだけど、その後でカンチェッラーラをマークすると決めたんだ。デニス・ザナッタ監督とマリオ・シレア監督が今朝のミーティングの時に、彼はおそらくアタックするから、後ろに付いていけとアドバイスしてくれていたのさ」と、サガンは初優勝について語っている。その走りを見たベルギーのエディ・メルクスは、地元TV局のインタビューで「彼はすべてのクラシックレースで勝てるだろう」と、絶賛していた。

第2ステージでマイヨ・ベールを獲得したサガンは、さらにパワーアップ。北フランスのブーローニュ・シュル・メールで競われたアップヒルゴールと、第6ステージの集団ゴールスプリントを制し、序盤戦であっという間に3勝を上げてしまった。ツールで初出場した選手が3勝したのは、1978年のイノー以来の快挙だった。彼はただ勝つだけではなく、2勝目のゴールは『フォレスト・ガンプ』、3勝目は『超人ハルク』の真似をし、レースファンを楽しませてくれている。スロバキアからやってきた怪童は、このままマイヨ・ベールをシャンゼリゼまで着続けてしまうのか。世界チャンピオンのマーク・カヴェンディッシュ(チームスカイ)は、第2ステージの集団ゴールスプリントを制したが、第4ステージで落車して負傷し、翌日のスプリントではいつものような力強さが見られなかった。第4ステージと第5ステージを制したドイツのアンドレ・グライペル(ロット・ベリソル)は、第6ステージで2度落車。親指、手首、肩を負傷した状態でスプリントを競ったが、サガンを下すことはできなかった。初出場で活躍が期待されていたマルセル・キッテル(チームアルゴス・シマノ)は、第2ステージでウイルス性の胃腸炎にかかってしまった上に、左ヒザが炎症を起こしてしまい、何の活躍もできないまま第5ステージ途中でツールを去っている。

ツールでは昨年も序盤戦の落車でビッグネームが姿を消したが、今年もまた同じ状況が繰り返されている。とくに第6ステージの終盤に起きた大落車では大勢の選手が負傷し、タイムを失ってしまった。いかに落車から逃れるかというサバイバル戦になっているツールは中盤戦に突入し、いよいよ山岳ステージが始まる。序盤戦はトラック競技で活躍するデンマークのミカエル・モルコフ(サクソバンク・ティンコフバンク)が山岳賞のマイヨ・アポワを着続けているが、この週末には新たなクライマーが山岳王の証を獲得するにちがいない。
■ツール・ド・フランス 第6ステージまでの総合成績 1 ファビアン・カンチェッラーラ(レディオシャック・ニッサン/スイス)29時間22分36秒 2 ブラッドリー・ウィギンス(チームスカイ/英国)+7秒 3 シルバン・シャバネル(オメガファルマ・クイックステップ/フランス)+7秒 4 ティージェイ・バンガルデレン(BMCレーシング/米国)+10秒 5 デニス・メンショフ(カチューシャ/ロシア)+13秒 6 カデル・エヴァンス(BMCレーシング/オーストラリア)+17秒 7 ビンチェンツォ・ニーバリ(リクィガス・キャノンデール/イタリア)+18秒 8 ピーテル・サガン(リクィガス・キャノンデール/スロバキア)+19秒 9 アンドレアス・クローデン(レディオシャック・ニッサン/ドイツ)+19秒 10 マクシム・モンフォール(レディオシャック・ニッサン/ベルギー)+22秒 17 ユルフン・バンデンブルック(ロット・ベリソル/ベルギー)+28秒 18 イバン・バッソ(リクィガス・キャノンデール/イタリア)+29秒 20 サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ/スペイン)+40秒 22 リーバイ・ライプハイマー(オメガファルマ・クイックステップ/米国)+45秒 27 クリス・フルーム(チームスカイ/英国)+1分41秒 28 ピーテル・ベリッツ(オメガファルマ・クイックステップ/スロバキア)+2分09秒 30 バウケ・モレマ(ラボバンク/オランダ)+2分26秒 31 ヤネシュ・ブライコビッチ(アスタナ/スロベニア)+2分27秒 34 アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン)+2分40秒 37 フランク・シュレク(レディオシャック・ニッサン/ルクセンブルク)+2分43秒 51 ロベルト・ヘーシンク(ラボバンク/オランダ)+4分13秒

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