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史上初! 英国のウィギンスが総合優勝 ツール2012総集編

1903年の創始以来、フランスは宿敵である大英帝国にツールの玉座を奪われたことがなかった。しかし今年、歴史は塗りかえられた。記念すべきオリンピックイヤーに、マイヨ・ジョーヌはドーバー海峡を渡った!
Photo: Graham Watson / RadioShack-Nissan / SIDI SPORT

2度の個人TTを制してウィギンスが完勝!


32歳のブラッドリー・ウィギンス(チームスカイ)は、第99回目を迎えた今年のツール・ド・フランスがスタートしたとき、優勝候補の1人ではあったが、絶対的な候補というわけではなかった。今年のコース設定は厳しい山岳ステージが少なく、個人タイムトライアルが長かったため、トラックの追い抜き競技出身のウィギンスには有利ではあったが、今年彼は3月のパリ~ニースと6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネで総合優勝しており、コンディションのピークは過ぎてしまっていると分析する声が主流だった。しかしウィギンスは、開幕からマイヨ・ジョーヌ獲得のための闘争心をゆるめることなく、着実に総合優勝の礎を築いていた。彼はプロローグで区間優勝したファビアン・カンチェッラーラ(レディオシャック・ニッサン)に7秒差の区間2位でスタート。中級山岳区間だった第7ステージの上りゴールでカンチェッラーラが脱落すると総合首位へと浮上し、その後の2週間、マイヨ・ジョーヌを誰にも渡すことなくパリへとたどり着いたのだ。2度の個人タイムトライアルでは、誰にも負けなかった。ウィギンスにとって今年唯一の不安点は、若きチームメート、クリストファー・フルームの存在だったが、英国初のツール制覇を目指すチームスカイの結束も固かった。フルームはチームの絶対的なエースを裏切ることなく、最後まで自分の“仕事”をやり通した。 英国のチームスカイは「5年間で英国初のツール優勝者を誕生させる」という目標を掲げて2010年に活動を開始し、2009年のツールで総合4位になったウィギンスを、米国のガーミン・スリップストリーム(現在のガーミン・シャープ)から引き抜いた。活動1年目のツールは、トーマス・ロブクウィストの総合17位が最高位で、ウィギンスは総合24位という平凡な成績に終わり、昨年はウィギンスが第7ステージの落車で鎖骨を骨折してリタイアし、最悪の結果になってしまっていた。しかし、3年目の今年、早くもその目標は達成された。ロンドンでオリンピックが開催される記念すべき年に、英国はついにツールを制したのだ。それは昔から大英帝国とは仲が悪いことで有名なフランス人にとっては、受け入れがたい屈辱だった。その意地が、今年のツールでフランスに区間5勝をもたらす力になったのだろう。今のフランスには、ウィギンスに対抗できるようなステージレーサーはいないが、22歳のクライマー、ティボー・ピノ(FDJ・ビッグマット)がツール初出場ながら山岳ステージでチームスカイに闘いを挑んだのもうれしい出来事だった。フランスは、シャンゼリゼ大通りを凱旋するフランス人のマイヨ・ジョーヌを待ち望んでいる…。 総合優勝したウィギンスのコメント「ここで起きていることを受け入れるのは大変だ。シャンゼリゼのすべての周回が、鳥肌モノだった。ボクたちは今日、マーク(カヴェンディッシュ)のために働き、みんながヤル気満々だった。だからとても速かったんだ。集中力はピークになり、このツールはマークの勝利で締めくくられた。これ以上の終わり方はなかったね。素晴らしい。言葉を失うよ。24時間前とはまったく違う感覚だ。ボクたちはここへやって来て、ボクたちがやるべきことに専念した。だから「ああ、それはこれだ」という感覚はなかった。レースは始まった途端に厳しく、(最終区間の)残り1kmで先頭を引いた最後まで同じだった。まさに今表彰台の上で、それに浸ろうとしている。しかし自分が何を感じているのかは、はっきりと表現するのは難しい。不思議な感覚だ。本当にとても不思議なんだよ」

ツール初出場のサガンがマイヨ・ベール獲得!


チームスカイのマイヨ・ジョーヌ獲得ミッションの影で、今年移籍したマーク・カヴェンディッシュは狙っていたマイヨ・ベールをつかみそこねてしまった。それは彼がチームから十分なアシスト選手を用意してもらえなかったせいであり、序盤の落車に巻き込まれて負傷してしまったせいでもあったが、最大の理由は他にあった。それは今年は、スロバキアのピーテル・サガン(リクィガス・キャノンデール)が参加していたということだ。サガンはツール初出場にもかかわらず、いきなり第1ステージで区間優勝。翌日のステージでマイヨ・ベールを獲得すると、あっさりパリまで持ち帰ってしまった。今年のツールではサガン、カヴェンディッシュ、アンドレ・グライペル(ロット・ベリソル)の3人がそれぞれ区間3勝を上げているが、ポイント賞ではサガンが421ポイントを稼ぎ、2位のグライペルに141ポイント差を付けてマイヨ・ベールを獲得している。「このツールにはとても満足している。自分自身でも驚くくらいにね。区間3勝とマイヨ・ベールなんだから。すごいよ。未来については、今は考えていない。今シーズンをよく終わらせたいね。オリンピックと世界線でよく走りたいし、多分そのあとは、クラシックのことを考え始めるだろう」と、サガンはパリで喜びを語っていた。

名門チームの意地を見せたレディオシャック・ニッサン


今年のツールは最終週に爆弾が落ちた。昨年総合3位だったルクセンブルクのフランク・シュレク(レディオシャック・ニッサン)が、大会中に行われたドーピング検査(尿検査)で、キシパミドという利尿剤の陽性になったことが発覚したのだ。シュレクはチームの判断でツールを去り、3日後にはB検査で陽性が確定した。今年、レディオシャック・ニッサンは総合優勝を目指すはずだったアンディ・シュレクが、クリテリウム・デュ・ドーフィネの落車で仙骨を骨折して欠場。チームマネージャーのヨハン・ブリュイネールもUSポスタルサービス時代のドーピング疑惑で米国アンチドーピング機関から告発されたため、ツールには参加しなかった。フランク・シュレクは早々に総合争いから脱落してはいたが、それでもチームは第8ステージでチーム成績の首位に立っていた。プロローグで優勝してマイヨ・ジョーヌを7日間着用したファビアン・カンチェッラーラは、第2子の誕生に付きそうことを選択して第10ステージ後にツールを去り、トニ・ガロパンも途中リタイアしたが、チームは黄色いゼッケンを守り続けた。そしてフランク・シュレクがツールを去ってしまった後半戦も、今大会最年長のイェンス・フォイクト、アンドレアス・クローデン、クリストファー・ホーナー、アイマル・スベルディアというベテラン勢が堅実な走りでタイムを稼ぎ、たった6人でもパリの表彰台に立つことができた。受難つづきだった名門チームには、最後の最後に笑顔が訪れた。

第99回ツール・ド・フランス 個人総合最終成績

1 ブラッドリー・ウィギンス(チームスカイ/英国)87時間34分47秒 2 クリストファー・フルーム(チームスカイ/英国)+3分21秒 3 ビンチェンツォ・ニーバリ(リクィガス・キャノンデール/イタリア)+6分19秒 4 ユルへン・ヴァンデンブロック(ロット・ベリソル/ベルギー)+10分15秒 5 ティージェイ・ヴァンガルドレン(BMCレーシング/米国)+11分04秒 6 アイマル・スベルディア(レディオシャック・ニッサン/スペイン)+15分41秒 7 カデル・エヴァンス(BMCレーシング/オーストラリア)+15分49秒 8 ピエール・ロラン(ヨーロッパカー/フランス)+16分26秒 9 ヤネシュ・ブライコビッチ(アスタナ/スロベニア)+16分33秒 10 ティボー・ピノ(FDJ・ビッグマット/フランス)+17分17秒

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