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ニーバリがついに頂点に立った! ジロ・デ・イタリア 2013 総集編

悪天候に見舞われたつづけた今年のジロを制したのは、イタリア南部シチリア島出身のニーバリだった

 

Photo: Graham Watson / LaPresse (RCS Sport)

シチリア島出身初のジロ勝者が誕生!

 

今シーズン最初のグランツールだった第96回ジロ・デ・イタリアは、地元イタリアのビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)が、連日の悪天候にもかかわらず、圧倒的な強さを見せつけて初制覇した。伝統的に自転車競技が北部で盛んなイタリアでは、これまで南部出身の選手がジロを制したことはなく、中部のアブルッツォ州出身選手がもっとも南だった。ニーバリはジロ史上初の南部出身優勝者になっただけでなく、シチリア島に初のマリア・ローザをもたらしたのだ。

 

ニーバリは今季カザフスタンのアスタナへ移籍し、ジロ制覇を目指してナポリを出発。第2ステージのチームタイムトライアルでは、区間優勝したスカイにたった14秒差で好スタートを切っていた。今年のジロは序盤戦が雨続きとなり、第7ステージでは優勝候補の1人だった英国のブラッドリー・ウィギンス(スカイ)が土砂降りの下り坂で転倒し、メイン集団から1分半近く遅れてゴールした。それでもウィギンスは、翌日に行われた54.8kmの長距離個人タイムトライアルで圧勝するのではないかと思われていた。しかし、彼は同じ英国出身のアレックス・ダウセット(モビスター)のタイムに10秒及ばす、区間2位に終わった。その一方で、ニーバリはダウセットに21秒遅れの区間4位で個人タイムトライアルを終え、総合首位に浮上した。

 

前半戦の第8ステージで早くもマリア・ローザを獲得したニーバリは、アスタナのチーム力に支えられ、その玉座を最終日までの2週間守りきった。彼の最大のライバルになるはずだったウィギンスは、序盤戦の悪天候で体調を崩し、胸部の感染症を患って中盤でジロを去って行った。チームスカイはウィギンスの代わりにコロンビア人クライマーのリゴベルト・ウランをチームリーダーに抜擢したが、前半戦をアシストとして走っていたウランは、第8ステージですでにマリア・ローザのニーバリとのタイム差が3分近く開いていた。ディフェンディングチャンピオンのライダー・ヘシェダール(ガーミン・シャープ)もジロを途中棄権し、ニーバリの脅威となるライバルは少なかった。しかし彼は、けっして守りの走りはしなかった。『メッシーナのシャーク』の異名を持つニーバリは、つねに攻撃を仕掛けるマリア・ローザだった。

 

 

後半戦に入ってイタリア北部のアルプス地方に舞台が移ると、雨は山間部で雪に変わった。5月中旬だというのに主だった峠は連日雪が降り続き、まるでジロの通過を拒むかのようだった。第14ステージは途中標高2035メートルのセストリエーレ峠を通過する予定だったが、山頂部は降雪のため気温が低く、気象予報も選手の安全を保証できるものではなかったため、主催者はコースを変更する決定を下した。その結果、セストリエーレ峠越えはキャンセルとなり、第14ステージは標高1908メートルのバルドネッキア峠だけで競われることになった。その日、空は一日中厚い雲におおわれ、TV中継ができないトラブルが発生。ライブ映像はゴールエリアに設置された数台の定点カメラのものだけになってしまった。全世界のレースファンは、まるで自分が霧に包まれたゴール地点で実際にレースを観ているような気分で選手の到着を待っていた。そしてTV映像に最初に映しだされたのは、マリア・ローザのニーバリと、蛍光イエローのジャージをまとったマウロ・サンタンブロージョ(ビーニファンティーニ・セッレイタリア)だった。ニーバリはバルドネッキア峠のもっともキツい地点で攻撃を仕掛け、総合を争うライバルだったカデル・エヴァンス(BMCレーシング)とリゴベルト・ウラン(スカイ)を蹴落として来たのだ。この日、ニーバリは区間優勝こそできなかったが、ライバルたちとのタイム差を広げ、総合初制覇へ向けた足固めをすることができた。

 

吹雪のステージを制したマリア・ローザ

 

今年のジロは最終週に入っても悪天候は変わらなかった。第18ステージの山岳タイムトライアルでは、マリア・ローザのニーバリはゴール地点で土砂降りの雨に見舞われた。にもかかわらず、彼はベストタイムを叩きだし、今大会初の区間優勝を獲得した。その一方で、総合2位のエヴァンスの走りは振るわず、ニーバリより2分半遅れで山岳タイムトライアルを終え、総合成績のタイム差は4分以上開いてしまった。ニーバリのマリア・ローザは盤石だった。ガビア峠とチマ・コッピ(その年のジロで最高峰の峠)のステルビオ峠を越える予定だった第19ステージは降雪の影響で中止になってしまったが、たとえそのステージが行われていたとしても、今年のジロの結果が変わることはなかっただろう。ニーバリは誰よりも強く、つねに勝利に飢えた『シャーク』で、最終日前日に行われた最後の山岳ステージでも、吹雪のなかでアタックし、区間2勝目を手中に収めたのだ。その力強い姿にイタリア中が熱狂し、新しいチャンピオンの誕生を祝福した。

 

3週間の激闘を終え、マリア・ローザを着て螺旋のトロフィーに口付けしたチャンピオンの脳裏には、ダブルツール達成という野望がめばえるものだ。しかし、かつてマルコ・パンターニをダブルツールへと導いたチームマネージャーのジュゼッペ・マルティネッリは、ニーバリをツール・ド・フランスには参加させないと明言している。『メッシーナのシャーク』がグランツール全制覇を目指すのは、来年になりそうだ。ジロの後、ニーバリはブエルタ・ア・エスパーニャとトスカーナ世界選に参加する予定だ。

 

●ビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)

1984年11月14日、イタリア、シチリア島メッシーナ生まれ。28歳。ニックネームは『メッシーナのシャーク』。身長180cm、体重64kg。2005年にファッサボルトロでデビューし、翌年リクィガスへ移籍。2010年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝。昨年はツール・ド・フランスで総合3位になり、シャンゼリゼの表彰台に上がった。今季カザフスタンのアスタナへ移籍。ティレーノ~アドリアティコとジロ・デル・トレンティーノで総合優勝し、ジロ・デ・イタリアでシチリア島出身者として初の総合優勝を果たした。

 

 

●総合初優勝を果たしたニーバリのコメント「今日はとても感動的な一日だった。まるでツールの最終日みたいだったよ。200kmのステージの間中、沿道に集まった大勢の観客はスペクタクルで信じられないほどだった。ボクにとってもすべての自転車レースにとっても、ものすごい喜びだ。トレーニングデータは記録するけれど、几帳面な性格ではないから何キロ走ったのかは計算しない方だ。そういったことには無頓着なのさ。ボクはただ、日々よく働こうと努力する。ジロでも同じだった。ボクは毎日ベストを尽くした。そして最後に、夢を実現したのさ」

 

[ジロ・デ・イタリア2013 個人総合最終成績]

1 ビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ/イタリア)84時間53分28秒

2 リゴベルト・ウラン(スカイ/コロンビア)+4分43秒

3 カデル・エヴァンス(BMCレーシング/オーストラリア)+5分52秒

4 ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・メリダ/イタリア)+6分48秒

5 カルロスアルベルト・ベタンクール(AG2R・ラモンディアル/コロンビア)+7分28秒

6 プジェミスラウ・ニエミエツ(ランプレ・メリダ/ポーランド)+7分43秒

7 ラファウ・マイカ(チームサクソ・ティンコフ/ポーランド)+8分09秒

8 ベニャト・インチャウスティ(モビスター/スペイン)+10分26秒

9 マウロ・サンタンブロージョ(ビーニファンティーニ・セッレイタリア/イタリア)+10分32秒

10 ドメニコ・ポッゾビーボ(AG2R・ラモンディアル/イタリア)+10分52秒

 

世界最速スプリンター、カヴェンディッシュが全平坦区間を制圧!

 

クライマー向きにデザインされているジロは、平坦ステージでもゴール前にトリッキーな丘が設定されていたりして、ピュアなスプリンターには活躍の場が少なく、今年も本当に『スプリントステージ』と呼べた区間はたった5ステージしかなかった。そのすべてを制圧したのは、英国マン島出身のスーパースプリンター、マーク・カヴェンディッシュ(オメガファルマ・クイックステップ)だった。ナポリで開幕した今年のジロは、数少ないスプリントステージでスタートした。その日、カヴェンディッシュは1つの約束をしていた。今年の4勝ジャージをデザインしたのは、同じ英国出身のファッションデザイナー、ポール・スミス氏で、カヴェンディッシュはジロ開幕の2週間前に彼のオフィスを訪れ、第1ステージで勝てるようにベストを尽くすと約束していたのだ。今年のジロで第1ステージを制するということは、ポール・スミス氏がデザインした最初のマリア・ローザを獲得することを意味していた。

 

初日の集団ゴールスプリントは、ゴール手前残り2kmで発生した落車のせいで、15人ほどの先頭グループで競われた。カヴェンディッシュはこのグループに残っていたが、彼の発射台をつとめるヒールト・スティーフマンス(オメガファルマ・クイックステップ)は、不運にもゴール目前で自転車のチェーンが外れてしまい、戦線離脱を余儀なくされてしまった。しかし、カヴェンディッシュは孤軍奮闘し、自らの脚で今大会初の区間優勝を勝ち取ったのだ。表彰台でマリア・ローザをまとったカヴェンディッシュは、親友であるポール・スミス氏から祝福された。

 

カヴェンディッシュのサクセスストーリーは、初日だけで終わりはしなかった。第6ステージでは心配されていたチームの連携もうまく機能し、スティーフマンスを発射台にして飛び出したカヴェンディッシュは無敵だった。彼が所属するベルギーチームに2勝目をもたらしたその日は、奇しくも2年前のジロの落車で他界したベルギー人選手、ウォートル・ウェイラントの命日だった。カヴェンディッシュは表彰式でゼッケン108を頭上高く掲げ、その勝利を亡きウェイラントに捧げた。そして第12ステージで上げた今大会3勝目は、28歳のカヴェンディッシュにとって記念すべきプロ100勝目だった。「普通、こういった記録にはそんなに意味があるものではないものだけど、これは特別だ。100勝するのは簡単なことではない。ボクはこれを楽しみにしていたんだ。それがジロで達成できるのはいいことだし、ボクたちがそれを成し遂げた方法もよかった。チームメートたちはこのステージで最初から最後まで全力を尽くしたからね。彼らはみんな信じられないほど素晴らしかった。だからこの勝利はより特別なのさ」と、彼は記録達成を心から喜んでいた。

 

 

プロ100勝を達成し、ポイント賞のマリア・ロッサを獲得したカヴェンディッシュは、その翌日のスプリントステージも制して4勝目を上げた。しかし、その後は最終日までスプリントステージはなく、厳しい山岳ステージが待ち構えていた。しかし、カヴェンディッシュは他のスプリンターたちのように途中棄権はせず、最終日までジロを走り切ると宣言した。「ボクはジロを愛しているのさ」と、彼はインタビューで語っていた。連日雪に見舞われた厳しい山岳ステージを耐えたカヴェンディッシュは、宣言通り最終日のブレーシャまで走り抜き、真紅のマリア・ロッサを着て最後のゴールラインを先頭で駆け抜けた。そして彼を3週間支え続けたチームメートたちと抱き合って喜びを分かち合っていた。